想いと共に花と散る
 そんな彼らのぎこちない様子を見ている人物がいた。廊下の端で、壁にもたれ掛かる沖田である。
 沖田は、剣の手入れをしているふりをしながら視線だけを前に流した。
 向こうから、雪が歩いてくる。少し俯き加減で、歩幅もいつもより狭い。
 そして、その先には窶れた表情を微笑みで隠す山南。

(あー……これ、まただ)

 沖田は心の中で、小さく息を吐いた。
 雪が顔を上げる。声を掛けようとして、ほんの一瞬だけ躊躇したのが分かった。

「……山南さん」

 その呼びかけは、いつもより小さい。それでも届く距離だ。
 山南は一度、視線を上げた。眼鏡の奥の目は雪を見た、はずなのに。
 沖田の目には、はっきり見えた。
 山南の瞳が、雪を“捉えきれずに滑った”瞬間が。

「……っ」

 山南は軽く会釈だけをして、雪から視線を外す。
 そして、そのまま歩き去った。
 取り残された雪は、その場に立ち尽くす。何も言わず、山南を追うこともせず、ただ少しだけ肩を落として。

(あー……これは、ないなぁ)

 沖田は、深く壁に背を預けて眉を下げた。
 雪が悪いわけじゃない。山南が冷たいわけでもない。
 でも、今のは明らかに“避けた”結果が出ていた。
 剣の刃を布で拭きながら、沖田は思う。

(無視じゃない。拒絶でもない)

 むしろ、気づかないふりをしたのだと。
 それが一番山南らしく、一番嫌な予感がした。
 沖田は、視線を雪に戻す。雪は、何事もなかったように歩き出そうとしていた。
 その背中が、何処か薄く見えて、目を細める。

(……あれ?)

 一瞬、光の加減でそう見えただけかもしれない。
 けれど、さっきまで確かに感じていた“そこにいる感じ”が、弱い。
 座り込んでいた沖田は、無意識に立ち上がって一歩前へ出た。
 確かめるように、確かにここにいるかを量るように。
 けれど、声を掛けることはできなかった。

(……言ったら、壊れる)

 何が壊れるのかは分からない。
 でも、今それを口に出したら取り返しがつかない気がした。
 沖田は剣を鞘に収め、軽く笑う。

「ま、気のせい、だよね」

 そう呟いた声は、誰にも届かない。
 ただ、その笑みの奥で沖田は一つ、確信に近いものを掴みかけていた。
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