想いと共に花と散る
「ずっと、ずっと……寂しかったんだよ」
何処かに失くしてしまった。
一度だけ二人で見た「豊玉俳句集」。
藤堂と三人で行った呉服屋で買った「桜色の着物」。
二人の間に共通する思い出を形作る物は、今は何処にもなかった。
「……ごめん、ごめんね」
握っていた手が離れた。はっとして、怖くなって掴み直そうとすれば、その手は雪の頬に触れる。
「そんな顔、させたくなかったのになぁ……」
どんな顔をしているんだろう。そんなに酷い顔をしているのか。
笑っているはずなのに、今にも泣き出しそうな顔をする沖田を見れば何となく想像できた。
「ま、待って……。今、笑うから」
「いいよ」
「土方さんが言ったの。皆は私に笑えって言うだろうって」
「無理して笑わなくていい」
「皆の気持ちを無下にしちゃう。私には、笑うくらいしか────」
こうして最後に抱き締めてくれたのは、いつのことだったか。
「……泣いてまで、笑わなくていいよ」
泣くなと言われた。決して、沖田の前では泣くなと。
誰よりも泣きたいのは沖田の方で、雪が泣いていては彼は泣けなくなってしまう。
あの時の土方は、一番沖田のことを心配していて、そして一番責任を感じていたのだ。
「わ、わたっ……私、泣いちゃ、駄目なのに……総司君の、前で…泣いた」
「うん」
「泣かない、ようにっ……泣かないようにって、考えれば、考えるほど………涙、止まんなくて」
「……うん」
「我儘だった。私、我儘だ……っ」
起き上がることすら大変なはずなのに、抱き締める力はあの時と変わっていなかった。
むしろ強くなっていて、絶対に離れないという気持ちが伝わってきて。
「妹は、我儘なくらいが丁度いいんだよ」
兄が二人いた。一人は、知らない世界を見せてくれた少し五月蝿い兄。
もう一人は、逃げたくなった時に逃げ場を用意してくれた意地悪な兄。
どちらも大切な兄だった。失いたくなくて、ずっと隣りにいてほしかった。
「ねぇ、今は土方さんがいないんだし……いいよね」
「何、が?」
「雪華って呼ばせて」
息が止まった。息の吸い方を忘れてしまったようで、上手く呼吸ができない。
そんな雪を落ち着かせるように、沖田は小さな背中は何度も擦った。