想いと共に花と散る
 はっ、はっと不規則な呼吸が徐々に落ち着いていき、再び規則的な呼吸が始まった時に沖田は言った。

「……好きだった。いや、好きだ。雪華」

 その言葉は何度も繰り返された。ひたすら言い聞かせるように、頭の中に刻み込むように、沖田は何度も繰り返す。
 
「我儘なのは俺もだ。いつからか、君の笑顔を独り占めしたいなんて思うようになっていた」

 相手は、試衛館時代からの付き合いである鬼の小姓。所詮は小姓と隊士の関係性だった。
 それなのに、その小姓は自身の正体を隠すことを忘れて無邪気に笑う。
 一人称だってそうだ。近藤や山南などが言う「私」と、雪が言う「私」は違う。
 雪の「私」は、女子であることを隠しきれていない「私」だった。
 誰にでも見せるようになった笑顔、隠しきれない自身の正体。明かさずとも皆にバレるのは当然のことだと思った。

「ごほっ……ごほっ………」
「総司君っ」
「いい、このままでいさせて」

 身体を離してもう一度寝かせようとしたから、より強く抱き締められる。
 肩に埋められた顔、まるで表情を隠すように縋り付いた。

「一回だけ、本当に一回だけ考えたんだ」

 今は遠い昔、雪が突然屯所から姿を消したあの日。
 珍しく焦った様子の土方を見て、沖田もまた全身から血の気が引いていくのを感じた。
 そして、夜に橋の下で傷だらけの雪を見て、自分の中の何かが完全に破壊された。
 初めてだったのだ。あんなにも他人に対して恨みの念を抱いたのは。

「君を連れて遠くに逃げれば、誰にも取られずに済むのかなって」

 世界を恨んだ。世界を憎んだ。
 雪と出会う前からの付き合いだった小夜のことすら恨んだ。どうして助けなかったのかと、何故お前だけ無傷なのだと。

「……最低だよ。俺は」

 答えてほしいと思うことすら、自分勝手で最低な思考だ。
 雪が答えられないと分かっているのに、わざと困らせるようなことを言ってしまう。
 ほら、だって困っているじゃないか。何と言ったらいいのか分からなくて、口を何度も開けては閉じている。

「でも、本気だ。局中法度を破ってもいい、罰されてもいい、人を斬ってもいい。ただ、君と一緒にいたかった」

 言葉が溢れて止まらない。もうやめよう、これ以上言わないでおこう、そう思えば思うほどに言葉はどんどん溢れてくる。
< 413 / 486 >

この作品をシェア

pagetop