想いと共に花と散る
 次は何を言ってしまうのだろう、そう身構えた時、不意に耳元で小さな声が聞こえた。

「私にとって……総司君は生きていいって教えてくれる人だった」

 その言葉を聞いた瞬間、雪の背中に回していた腕の力がほんの一瞬だけ緩んだ。
 けれど、雪の腕が逃がさないように沖田の背に回される。

「嬉しかったんだ。私」
「……ん?」
「大坂に行く時に、私はこの時代の人間じゃないって言ったでしょ。冗談だって笑われると思ってたけど、総司君ってば本気で信じてくれたから」
「いや、正直信じられないけど……」
「それでも、話を聞こうとしてくれた。結局、何も言えなかったけど」

 あの時は逃げてしまった。聞いてほしいと思ったのに、拒絶されることが怖くて話をやめてしまった。
 しかし、今ならば聞かせられる。
 自分はこの時代の人間ではないこと、未来という遠い場所から来たこと、全てを聞かせてもいいと持った。

「……長くなっちゃうけど、聞いてくれる?」
「ああ、ちゃんと聞く」

 それじゃあ、ほんの少しだけ昔話をしよう。
 長くなってしまうけれど、帰らない口実にはちょうどいい。まだ日は沈まないから。
 
「今から、大体百六十年くらいかな。ずっとずっと先の未来で私は生きていた」

 部屋の換気をするために障子を開ける。縁側の先に広がる庭の上は、雲一つない快晴だった。
 そんな青空を見上げながら、雪は縁側に腰掛ける。
 背後で布が擦れ合う音が聞こえた。振り返ること無く、雪はゆったりと語る。

「その世界には、ここには無い物がたくさんあるの」
「例えば?」
「そうだな……あっ、車。この時代の移動手段と言えば、船か馬か徒歩でしょう。未来にはね、エンジンを掛けると道が続く限り走り続けられる機械があるの」
「……それは、すごいなぁ」

 信じているのだろうか。何処か呆けた声が聞こえて、雪は思わず振り返った。
 一抹の不安を感じたが、沖田は笑って話の続きを待っている。大丈夫、生きている。

「後は、炊飯器。前にお米の炊き方を教えたことがあったよね」
「そうだね。水は、手の甲が隠れるくらいだったけ」
「そうそう! 今じゃあ総司君の方が炊くの上手かもね」
「あはは、それはどうだろう。……で、その炊飯器って何?」
「炊飯器っていうのは、洗ったお米と決められた量の水を入れてボタンを押すと、勝手にご飯を作ってくれるの」
「おお、そりゃあ万能だ」

 未来とはこんなにも生きやすい世の中だったのか。
 この時代にはないものがたくさんあって、もっと自由が効いて。
< 414 / 489 >

この作品をシェア

pagetop