想いと共に花と散る
 それでいて、ずっとつまらない世の中だ。

「万能なものがたくさんあると、それだけ楽なんだよね」
「……いいことじゃないの? 楽なのは」
「うん。楽なのはいい、と思う。でも、楽な分無いものが多いの」

 背後から腑に落ちないらしい唸り声が聞こえた。
 それが少しおもしろく感じて、雪は小さく笑みを零す。

「車があったら、途中で歩き疲れて休憩する必要がない。だから、道端に咲いている花を見つけて、でも名前が分かんなくて悩むことがない。簡単にお米が炊けたら、二人で火加減を気にして慌てることがないんだよ」

 この時代で生きたからこそ、気付いたことがあった。
 幸せとは、何も便利な機械に囲まれた生活があること、お金があって裕福な暮らしができることだけではない。
 質素な料理でもいい。誰かと一緒に同じ場所で同じものを食べる温かさ。
 失敗ばかりでもいい。誰かと試行錯誤をしながら悩み解決する喜び。
 怖がってもいい。誰かと静かな夜に語らう安心感。
 それらを教えてくれたのは、未来ではなくこの時代に生きる人達だった。

「全部、私の宝物」

 もう二度とあの頃の時間は返ってこない。
 今では会えなくなってしまった人の方が増えてしまった。
 けれど、思い出は残っている。共に笑い、共に戦い、共に泣き、共に立ち上がった日々。

「どれだけ未来に近づいても、歳を取っても忘れないと思う」
「……俺も」

 そう答えながら、沖田は布団の上に置いた手を握り締めた。

(歳、取ってないのにね)

 出会った頃から何も変わっていない。ずっと、十五歳のまま目の前にいた。
 おかしいと思っていたのに、今でも自分の気のせいだと誤魔化している。
 ただ、悩む理由はなかった。雪は雪。それでいいじゃないかと、誰かが言ったのだ。

「総司君はさ、どんな未来が見たい?」

 あんまりにも酷な問だと思ってしまった。
 振り返った雪が、恐れも汚れも何も無い笑顔を向ける。その笑顔を見た沖田は、ふいっと顔を背けた。

「そうだなぁ……」

 ずっと先の未来を生きていた雪なら、教えてくれるのだろうか。
 見ることのできない未来とやらを。雪華という存在を生み出した未来とやらを。

「自分の大好きな人が、当たり前に笑っている未来」
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