想いと共に花と散る
 古びた木目の天井を眺めて、ふと想像する。
 刀なんて必要ない、誰も血に怯えることのない平和な世界で、大好きな人が隣で笑ってくれる姿。
 その世界では、正体を隠す必要がないはずだ。
 ありのままの姿で町中を歩けて、好きな着物を着て、友達と遊べて、想いを寄せる人と生きられて。

(……行かないでって言ったら、君はここにいてくれるのかな)

 ほんの少し先にいるだけだ。部屋の中にいる沖田、縁側に座る雪。距離で言えば、たったの数歩だけ。
 それなのに、こんなにも遠かった。

「───……雪華」

 お願い、こっちを向いて。
 お願い、笑って。
 お願い、行かないで。

「あっ、猫」

 駄目だよ。行っちゃ、駄目だ。
 
「あははっ、可愛い」

 君って、猫が好きだったの?
 というか、動物好きだったんだ。そんな笑い方もするんだ。

(何も……何も、知らないじゃないか)

 一番初めに君の笑顔を見られたと、本気で嬉しかったのに。
 実際は、見せてくれていない表情ばかりで。
 そしてそのどれもが、自分の手で作り出したかった表情だった。

「見て、総司君。黒猫!」
「……そう、だね」

 良かった、まだ声が出せる。
 まだ、生きてる。

「今、そっちに連れて行くね」
「ううん……俺、が…そっちに行く」
「無理しないでね」
「大丈夫」

 無理をしないと、君は何処かに行っちゃうじゃないか。
 ここにいてくれないなら、何処か遠くに行ってしまうなら、自分から君の元に行く。
 手を伸ばしても届かないなら、届くまで近づけばいい。

(頼む。あと少しだけでいい、動いてくれ……っ)

 こんなことに愛刀を使うのは気が引けるけど、この際仕方がない。
 もう抜けないんだから、戦えないんだから少しくらい雑な扱いをしたって良いだろう。
 刀を杖にするとか、土方さんが見たらぶん殴ってくるだろうなぁ。
 いや、土方さんだけじゃないか。近藤さんも、山南さんも、平助も、永倉さんも、原田さんも、一も、源さんも、山崎さんも、皆怒るだろうな。
 刀をそんな扱いするなって。

「……触って良い?」
「もちろん」

 嗚呼、良かった。君の隣に、自分から行けたよ。
 こんなに小さかったんだ、君って。

「ふわふわ、だ……」

 生きているんだね、この黒猫も。
 君の髪みたく、真っ黒だ。知ってる? 黒猫って病を祓ってくれるらしいよ。
 俺の病気を祓いに来てくれたのかな。

「温かいなぁ」
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