想いと共に花と散る
 再びソファに座らせられた市村はしゅんと項垂れ、その隣で大鳥は気まずそうに咳払いをする。
 その間、土方の視線が二人から逸らされることはなかった。
 暖炉の火がぱちりと小さく音を立てた時、大鳥が顔を上げる。

「さて……落ち着いて話そうか」

 さすがは陸軍参謀なだけあって、こうした話し合いの場では威厳な態度を見せた。
 目の色を変えた大鳥と見つめ合い、土方は膝の上で手を組む。

「まず、何故俺を呼んだ」

 単刀直入な土方の言葉に、大鳥は少しだけ笑った。

「話が早くて助かるよ。理由は簡単。君は――……負け戦を知っている指揮官だろう」
「……褒めているのか、それは」
「褒め言葉さ。勝ちしか知らない人間は、撤く判断ができない」

 その言葉には、飾りも感情もなかった。 
 土方と大鳥の視線の間に火花が散る。互いに退けない覚悟がぶつかり合った。

「蝦夷地は、理想を語る場所ではない。生き延びる場所だ。軍も、民も、全てひっくるめてね」
「俺に、何をさせたい」
「まとめ役だ。旧幕府軍、脱走兵、元武士、志だけ持った若者……バラバラの人間を、一つの“軍”として機能させる」

 あまりにも迷いのない大鳥の言葉は、簡単に言いくるめてしまう勢いがある。
 その勢いに飲まれまいと、土方は一度だけ目を伏せた。
 それは、かつて新選組でしてきたことと、あまりにも重なっていた。

「……随分、酷な役だな」
「君以外に任せられない」

 新撰組にいた頃は、その役目を土方が自ら進んで買っていた。
 けれど、今は他人に任せたいと言われている。決して名誉ある役割ではない。
 土方は何も言わず、ただ大鳥を見つめた。大鳥もまた、土方を見つめ返す。
 そこで、雪はおずおずと口を開いた。

「……戦う、んですか?」

 大鳥と土方、二人の視線が同時に雪に集まる。
 あまりの眼光の鋭さに、雪は思わず身を強張らせた。

「戦いは避けられないだろうね」
「だが、戦うために来たわけじゃねぇ。そんで、そのために呼んだわけでもねぇだろう」

 一足先に雪から視線を外した土方は、一段声を低くして言う。
 その言葉を聞いた大鳥は、不敵な笑みを浮かべた。
 土方が怪訝な表情を浮かべたことなど言わずもがなである。

「俺達は、生きる場所を作りに来たんだ」

 雪は、その言葉を胸の奥で反芻した。
 蝦夷地で何をするのか。それは“勝つ”ことでも、“名を残す”ことでもない。
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