想いと共に花と散る
 ただ生きていることを証明するため。
 かつて、帰る場所を作り出さないと生きられなかったからこそ、生き続ける理由があった。

「……夢は大きいに越したことはない」

 そう言って大鳥は徐ろに立ち上がり、部屋の扉の前に立った。
 彼の背中を見た市村が「あわわ」と声を上げる。その顔は恐怖で青白くなっていた。
 雪と土方は、事の成り行きを見守る。否、見ていることしかできなかった。

「盗み聞きするくらいなら、入り給え」
「おおう、気づかれちまった……」

 勢いよく開け放たれた扉の前には、縦に並んで耳を向ける男とつねの姿が。

「私が座っていた席に座りなさい。ここからは君の番だ」
「ぼ、僕がお空け致します!」

 反強制的に部屋の中に入れられた男が、市村すら立った向かいのソファに腰を下ろした。
 つねは大鳥に止められ、部屋の隅で市村と並んで立っている。

「い、いやぁ。悪いな、盗み聞きしちまって」
「端から部屋に入ってりゃ良かっただけだろ。あんたが入り難く思うような話じゃなかったはずだ」

 土方の男に対する警戒心は頂点に達していた。
 彼が誰なのか知らない雪とは違い、正体を知っているからこそ抱く警戒心。
 蝦夷地に着てから初めて見せる鬼の顔がそこにはあった。

「……生きる場所、だったか」

 ソファの背もたれに深く身を預け、男は天井を見上げる。
 組んだ左足が隣りに座った大鳥の足に当たり、彼が無言で殴ったことで反対に組み直された。

「ここは、あんたの生きる場所にゃならねぇよ」
「ど、どういう意味ですか?」

 男の言葉に問うたのは、土方ではなく雪だ。
 天井に向けられていた男の視線が見下ろすように向けられる。
 その目には、微かな蔑みの色が滲んでいた。

「それはな──……」
「やめろ」

 低い大鳥の声が場の空気を変えた。次の瞬間、止まっていた呼吸が戻ってきて雪は微かに咳き込む。

「そんな話をするために、この場を設けたわけではないだろう」
「……それもそうだな」

 どちらが目上なのだろう。今のところ、大鳥が男を制している様子しか見ていない気がする。
 しかし、市村の怯えた様子を見ていると、どうにも男の方が力を持っているように見えた。
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