想いと共に花と散る
 しばしの静寂の後、疎らな拍手が聞こえてきた。
 大鳥が大げさに手を叩き始め、つられるように榎本やつね、それ以外の参加者達も手を叩く。
 あっという間に会場内は拍手の音で満ちた。それは、確かに雪と土方が歓迎された証拠である。

「……一先ずの大仕事は、終わりですかね」
「そーだな」

 ぶつぶつと文句を言いながらも、壇上から降りた土方は、似合わない愛想笑いを浮かべて挨拶をして回った。
 雪は特にすることもなく、とりあえず腹を満たそうと用意されている料理に目を向ける。
 この時代に来てから初めて目にする料理ばかりだ。
 小皿に幾つかの料理を取り盛って、部屋の端に向かうと小さく息を吐く。

(……緊張したぁあぁ)

 壁に背を付けて、そのままずるずると擦り付けながら座り込む。
 一口、二口と料理を口に運んでみるが大して味がしない。
 たった一人でする食事はこんなにも寂しかったのかと、麻痺してしまった感覚が恨めしかった。

「お隣、よろしいですか?」

 一人寂しく料理を頬張っていると、市村が話し掛けてきた。

「鉄君……」

 同じ十五歳ということもあり、市村とはさほど時間が掛からずに打ち解けた。
 隣に座り込んだ市村も料理を口に入れる。育ち盛りであるからか、皿の上にはとんでもない量の料理が盛られていた。

「結城さんは、天麩羅なるものはもう食べましたか? 西洋風の揚げ料理らしいんですが、それはそれは美味しくて!」
「そうだね」
「あれ、もしかして食べたことあるのですか?」
「まあ。あるにはあるかな」

 主に未来で、とは言わずに曖昧に笑った。
 この時代では、天ぷらというものには馴染みがない。わざわざ“西洋風”なんて言い方をするのは、この時代ならではだろう。
 天ぷらだけではない。カステラ、ボーロなどの菓子類。ビール、ワインなどの酒類も日本で取り入れ始めたのは最近のことだ。

「知っていますか? 大坂で“ふれんちこーす”なるものが将軍様に振る舞われたそうですよ」

 片言の英語を得意げに話す市村は、どうにも同い年には見えない。
 どちらかというと弟のようだ。無邪気で、この世の穢れを知らない。ただ我武者羅に走り回るだけ。

(弟、かぁ……)

 二人の兄がいた。どちらも手を引いて知らない世界を見せてくれた。
 先に進むことを教えてくれた兄、立ち止まってもいいということを教えってくれた兄。
 雪は、二人の兄を持つ弟であり、一人の弟を持つ兄になった。
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