想いと共に花と散る
「……飲まないんですか?」
「あ?」
「折角煎れてくれたんですよ、あの人が」
あの人が、という部分をわざと強調して言う。
別にいらないじゃないか。あの人が用意したお茶があるのなら、自分が煎れたお茶なんて。
含みのある雪の言葉を聞いた土方は、目の前に置かれた湯呑みとカップを交互に見やる。
そして、彼が手を伸ばすのは―――。
「あ、おい!」
土方が手を伸ばすよりも先に、雪は自身が用意したカップを手に取った。
取り上げるようにしてカップを持ち上げると、そのまま一気に煽るようにして中身を飲み干す。
「……何がしてぇんだ」
「自分の胸に手を当てて考えてみてください」
それだけを言うと、わざと女が用意した湯呑みを土方の方へと差し出す。
何か言いたげにする土方に背を向け、逃げるように部屋を出た。
(……いやいや! 何してんの私!?)
百歩譲って、あの女が煎れた茶を勧めるのはいい。
問題はその後に自分が取った行動だ。とうとう頭がおかしくなってしまったのか。
どう考えても、あの空気は自分の茶を選べと言っているようなものではないか。しかも、土方にはその気持ちが伝わっていた。
だから、彼は雪が用意したカップの方へと手を伸ばしたのに。
「最悪っ……!」
すぐ傍の壁を一発ぶん殴り、縋り付くように額を付ける。
自分でも何がしたかったのか分からない。
嫉妬。焦燥。羞恥。憤怒。決して表に出すことは許されない感情がぐちゃぐちゃに混ざり合う。
何処かに向けて発散しないといけないのに、発散する方法が分からなくて吐き出しそうだ。
廊下の隅に座り込み、膝を抱えて首巻きの中に顔を埋めた。
「こんなところで何をしているんだい?」
「風邪引いちゃうわよ?」
聞き慣れていないはずなのに、やけに安心する声が聞こえて顔を上げる。
廊下の先から現れた大鳥とつねは、廊下で蹲る雪を見て目を剥いた。
「何かあったのかい?」
大鳥は、誰かに似ている。この無条件な優しさを見せるところや、少し目を離すと何処か遠くに行ってしまいそうな儚さや。
彼を見ると頭の中であの頃の光景が蘇った。
洗濯物をひっくり返してしまった時に現れて、拾う手助けをしてくれた人。
己の強さとは何であるのか教えてくれた人。
時代の流れに付いて行けず、最期には自分自身にすら置いていかれてしまった人。