想いと共に花と散る
 この洋館には、かつての仲間に似た人がたくさんいた。
 勝手に自分が彼らの面影を重ねているだけだとしても、彼らが隣りにいてくれている気がした。

「……馬鹿」
「ん? ば、馬鹿?」
「馬鹿、阿呆、間抜け、タラシ、おたんこなす」
「え、ええ?」

 わけの分からない言葉ばかりを羅列する雪に、大鳥は困惑した様子でつねと顔を見合わせる。
 そんな困惑する二人をよそに、雪は再び首巻きの中に顔を埋めた。
 元の首巻きの持ち主は、師匠に寒がらずに済むよう与えられたと言っていた。けれど、今の雪は寒くてたまらない。
 この寒さは、慣れない蝦夷という土地にいるからだけではなかった。

「何があったのか分からないが、取り敢えず立とう。私の部屋に来るといい」
「美味しいお菓子あるわよ」

 そう言って二人は雪に向かって手を差し伸べた。
 何も知らないから優しくできるのか、それとも知っていようがいまいが関係なく二人が優しいのか。
 
「……行きます」

 正直言って、そんなことはどうでも良かった。
 今はただ、彼の元から離れたい。頭を冷やしたい。
 両手をそれぞれ二人に握ってもらい、引っ張られるようにして立ち上がる。
 一度土方の部屋の方を見た雪は、べーっと舌を出してから大鳥とつねに手を引かれるまま歩き出した。

「……っくし!」

 たった一人、静かな部屋で喉の渇きに苛立つ土方はそんなことも知らずにいた。







「わあああ……っ!」

 思わず溢れ出した雪の感嘆の声が部屋に響く。
 あれから、雪は連れられるままに大鳥の部屋に入った。雪は部屋に入るなり洋風の四足の椅子に座らせられる。
 その向かいには、大鳥が同じような椅子に座っていた。
 
「こ、これカステラですよねっ!?」
「あら、雪ちゃん加須底羅を知っているの?」
「諸外国から入ってきたのは、つい最近のことであるのに。結城君は博識だね」

 しまった、完全に浮足立っていた。
 雪が生まれた世界では、カステラだけでなくケーキやパンが当たり前に親しまれているとしても、この時代で彼らのような人間がカステラに馴染みがあるはずがない。
 大鳥のような立場の人間でなければ、手に入れることすら未だ困難な代物だ。
 
(……この時代じゃ、カステラは珍しいものなんだった)

 何だか上手く勘違いしてくれたようだが、今の雪の発言は不自然なものであった。
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