想いと共に花と散る
 袖の中には、つねと偶然立ち寄った雑貨屋で買った懐中時計の包が入っている。

「その……」

 包みを取り出す指先が、少しだけ震えた。
 慣れないことをしようとすると、どれだけ覚悟を決めたって人間は立ち止まってしまうらしい。

「今日、街で見つけて……」

 言葉が、喉で絡まる。何を言うのか事前に考えていたはずなのに、彼を前にした途端全て何処かに飛んでしまった。

「土方さんに、似合うかなって……思って」

 そっと、包みを差し出した。自分でも驚くくらい、その手は震えていて。
 そのことに気付いていながらも、土方は黙ってそれを受け取った。
 重さを確かめるように手の上で転がし、紐を解く。
 中から現れたのは、小さな懐中時計。灯りを受けて、静かに光る先の時代を進む代物。
 蓋を開くと、

 ――コチ、コチ。

 規則正しい音が、二人の間に落ちた。
 土方は何も言わない。ただ、静かにその音を聞いている。
 やがて、ゆっくりと視線を上げた。

「……どういう風の吹き回しだ」

 ぶっきらぼうな言い方。けれど、目は柔らかい。

「いつも……時間、気にしてるから」

 それだけを言って、雪は視線を逸らした。
 言いたいことは何だったか、伝えたいことは何だったか、全部忘れてしまった。
 けれど、たしかに受け取ってもらえた。それだけが雪の胸を温かいもので満たしていく。

「忙しいの、分かってるから。せめて……」

 土方は、しばらく時計を見つめていた。
 それから不意に立ち上がると、雪の前に一歩近づく。
 距離が一気に縮まった。

「……馬鹿」

 低い声が頭の上から落ちてきた。
 荒々しくて、棘がある言葉なのに、そこに怒りは一つも感じられない。

「そんな顔して渡すもんじゃねぇ」

 雪が顔を上げると、優しく細められた目と視線が交わった。
 思わず頬を赤らめてしまう。そんな雪を見て小さく笑った土方は、懐中時計を大切に胸元へと仕舞った。

「……ありがとよ」

 たった一言。
 だが、それは受け取ったという証だった。

「大事にする」

 そして、ほんの僅かに手が伸びる。
 雪の頭に触れるか触れないかの距離で止まり、代わりに頬へと落ちた髪を指先で払った。

「終わったら、何処か連れて行ってやる」
「え?」
「もうすぐ大仕事が片付く。それが終われば、休暇がもらえるかもしれねぇんだ」

 約束とも宣言ともつかない声。けれど、確かに未来を含んでいた。
 コチ、コチ、と時計の音が続く。
 止まらない時間の中で、二つ目の繋がりが二人の間に生まれた。
< 464 / 486 >

この作品をシェア

pagetop