想いと共に花と散る
 庭へ駆け込んできた足音が、砂利を激しく蹴散らした。

「何事だ!」
「庭で火を焚べるのは危険です! すぐに消して───」

 低く鋭い声と若い少年の声が空気を切り裂く。その声だけで、辺りに漂っていた空気が変わった。
 洋館から飛び出してきたのは、遅れて騒ぎを聞きつけてきた土方と市村だった。
 コートもきちんと掛けぬまま、急ぎ出てきたのだろう。髪もわずかに乱れている。だが、その目だけは異様なほど冴えていた。
 燃え残る焚き火。その前に膝をつく雪。灰に塗れた手。そして、その傍らに立つ琴。
 状況を一瞬で見渡し、土方の眉間が深く寄った。

「……何をしている」

 琴はその声を聞いた瞬間、はっとしたように振り向いた。

「歳三さん……っ」

 その名を口にした次の瞬間、すっと表情を歪めた。
 土方が向ける視線に、確かな怒りを感じ取ったのだ。

「わ、私は……っ、結城さんが突然取り乱して……! 火に手を入れようとするものですから、止めようと……」

 震える声に、今にも泣き出しそうな顔。先ほどまでの冷たい笑みは、跡形もない。
 こればかりは演技ではなく、本気で取り乱している様子だった。
 饒舌に言い訳を口にする琴を見ても、土方は何も言わない。ただ、ゆっくりと雪へ近づいた。

「……雪」

 名を呼ぶ声は、思っていたよりもずっと低かった。
 雪はその声に反応しない。膝を着いたまま、灰を掻き集めている。

「……戻んない……」

 掠れた声が空気を震わせた。

「戻んないよ……」

 その言葉を聞いた瞬間、土方の目が変わる。明確な怒りがその瞳に宿った。
 狂ったように灰を掻き集める雪の手に触れても、止まることなく動き続ける。正気を失っているのは確かだった。
 そんな状況で、性懲りもなく琴が一歩、土方へ寄る。

「本当に、私は何も……っ。その子が勝手に――……」

 その言葉の途中、土方の腕が無造作に琴を押し退けた。
 強くはない。だが、明確な拒絶が込められている。

「……触るな」

 冷え切った声音が決定的に彼女を遠ざけた。
 押しやられた琴の身体はよろめき、一歩二歩と後ずさる。
 土方へと向ける目には、ただただ何が起きているのか分かっていない戸惑いが滲んでいた。

「え……」

 土方が再び琴を見ることはなかった。視線は、地に蹲る雪だけに向けられている。
 灰で黒くなった指。赤くなった皮膚。震える肩。
 只事ではないと察するには、それだけで十分だった。
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