冷徹国王の愛娘は本好きの転生幼女~この世の本すべてをインプットできる特別な力で大好きなパパと国を救います!~2
ぐううー。レオンティーヌのお腹(なか)が鳴った。時計を見るとおやつの時間には少し早いが、いつものように調理場に行き、王宮の料理長であるハンネスを訪ねた。
「ハンネスしゃん、お腹がしゅいたのでしゅが、今は大丈夫でしゅか?」
難しい顔をして袋を覗(のぞ)き込んでいたハンネスだったが、声をかけると晴れやかな顔になり、すぐに立ち上がってレオンティーヌの方に来てくれる。
「もうそろそろ、いらっしゃる頃だろうと思い、クッキーを焼いてお待ちしておりましたよ」
レオンティーヌ専用のテーブルに、可愛らしくハート型に型抜きされたクッキーが置かれた。
「ふわあ、可愛い形だ! しかもバターたっぷりで濃厚でおいしいでしゅ。いつもありがとう」
レオンティーヌがおいしそうに頬張っていると、他のシェフも集まってきた。
「さっきまで恐ろしい顔で唸(うな)っていたハンネス料理長が、今は別人のようにとろける笑顔になって、怖いくらいですよ」
言われたハンネスは、余計なことを言うなと言わんばかりにそのシェフを睨(にら)む。そして、レオンティーヌが食べ終わるのをホクホク顔で見守っていた。
「おいしかったでしゅ。ハンネスしゃん、ごちそうしゃまでちた」
空腹も収まり、満足したレオンティーヌは調理場に置かれた袋に目をやった。
そういえば、調理場に入ってきた時に、ハンネスは悩んでいるようだったなと、レオンティーヌは思い返す。
「ハンネスしゃん、しゃっき覗いていた袋の中には、何が入っていたのでしゅか?」
レオンティーヌが尋ねると、ハンネスは山積みにされた袋の中の一つを持ってきた。レオンティーヌに見せるようにして、中身を開くと小麦が入っていた。
玄米は見たことがあるが、実物を初めて見たのでその黄色がかった茶色にびっくりする。
「健康的な夏のお肌のことを小麦色というらしいでしゅが、この黄色がかった小麦の色が健康的な色でしゅと?」
海水浴で浮輪を抱えたお姉様や、マッチョなお兄さんとのギャップがありすぎて、唖然としていたら、「他の色の小麦もありますよ」とハンネスが違う袋も持ってきて見せてくれた。
そこには赤みが強い小麦、白っぽい小麦と色々な種類があったのだ。
「小麦ってこんなに多くの種類があるんでしゅね。知らなかった……」
図鑑に載っている小麦は、だいたい収穫前の穂先がつんつんしている植物の状態で、刈り取られたあとどんなふうになるのかまでは載っていないのだ。
そういえば、今までパンやうどんなど小麦を使った料理をたくさん食べてはいるが、詳しくは知らない。今食べているクッキーも小麦からできているのだなと思うと、改めて小麦の奥深さを感じる。
「しょれで、しゃっきはどうちてあんなに難しい顔をしていたのでしゅか?」
小麦のことは後回しで、レオンティーヌのためにクッキーを小袋に詰めているハンネスに聞いた。
「他国の品種の小麦を輸入する前に試して、我が国に合う小麦を選び出してほしいと言われ、安易に了承したのです。そうしたら、まさかこんなに多くの品種が届くなんて思ってもみなくて……。それに品種名が書いていなくて困っておりました」
「しょういえば、おとーしゃまも小麦のことを言ってまちた。小麦ってこんなにいっぱいの種類があるんでしゅね」
前世で料理下手だったレオンティーヌも、強力粉と薄力粉があるのは知っている。だが、料理長ともなるとその二種類の違いで悩んでいるのではなさそうだ。
ハンネスが言うには甘みや水分量、たんぱく量、灰分量の違いで品種を見分けるらしい。しかも小麦粉になった粉を触ると、品質の違いもわかるという。
ここでレオンティーヌは、王宮図書館で『世界の小麦とその分類』というタイトルの本があったのを思い出した。
(もし、私が小麦の特性についてハンネスさんにきちんとした情報を伝えてあげられると、早く選定できて、今日のお父様との話し合いもスムーズに行えるかも! そしたら、お父様が早く帰ってこられる。皆ウィンウィンでは?)
レオンティーヌが生き生きとした瞳でハンネスに提案する。
「ハンネスしゃん、この小麦のことが詳しくわかるかも知れましぇん。図書館に行ってくるので、ちょっと待っていてくれましぇんか?」
レオンティーヌは一人で図書館に行こうと思ったが、慌ててエプロンを外したハンネスに抱き上げられた。
「じゃあ、私がご一緒させていただきます。私も図書館に用事がありますので!」
ハンネスがニコニコしている後ろで、シェフたちがひそひそと囁(ささや)いている。
「レオンティーヌ様と遊びたいだけでしょう」やら、「絶対に図書館に用事なんてなかったと思いますけど……」と。
そんな声を聞きながら、レオンティーヌとハンネスはシェフたちに見送られて図書館に向かったのだった。
図書館に着いたレオンティーヌはすぐに本の題名を言って、司書に場所を教えてもらう。そのブースに着くと、食物や食材に関する本が多く並んでいて、ハンネスも何冊か手に取って読み始めている。
捜していた『世界の小麦とその分類』という本はすぐに見つかった。
ぺらりと表紙をめくると、レオンティーヌの瞳は緑色から金色に輝く。次の瞬間、本の文字が光って浮き上がった。そして、金色の糸のように連なると、うねりながら空中を移動し、するするとレオンティーヌの体に吸い込まれていった。
そう、これでこの本の知識はすべてレオンティーヌに入ったのだ。
「うん、完璧でしゅ。しゃっき見た小麦の品種もわかりまちたよ。あ、せっかく図書館に来たのだから、もう何冊か読んでいきましょう!」
ルンルン気分で隣の本に手をかけたが、その本を取り出すことはできなかった。
「まだお読みになるつもりですか?」
突然、厳しい声がレオンティーヌの背中に突き刺さった。
伸ばしていた手を引っ込めて、恐る恐る振り返ると、そこには鬼が!ではなく、家庭教師のヨリックが立っている。
「こ、ここ、これはヨリックしぇんしぇい。えっと、これはしょの、あの……」
人間は急に何かが起こると、本当に頭が真っ白になる。しどろもどろのレオンティーヌに、さらに詰め寄るヨリック。
「朝の授業で、すでに規定数の本を読んでしまわれたので、今日はもう読書しないという約束でしたよね? それなのに、先ほど、レオンティーヌ様が本を一冊読み終えたのを、私ははっきりとこの目で見ましたけど?」
魔力がある人には、レオンティーヌのスキルが発動した時に起こる金色の糸が見えるため、読んだことが盛大にばれてしまうのだ。自分のスキルが恨めしい。
レオンティーヌの読書量について、ヨリックが厳しく制限するのには理由がある。それは彼女が本をインプットするには、彼女の魔力を消費するので、多くインプットしすぎると魔力切れを起こし命の危険を伴うからだ。
だが、本好きなレオンティーヌはうっかり忘れて、今まさにのんきに本を読んだ上にもう一冊手に取ろうとしていたのだから、ヨリックが腕を組み、雷を落とそうとしていてもしかたがない。
しかし、救世主はいつも身近にいるのだ。
「レオンティーヌ様、小麦のことがおわかりになりましたか? あ、ヨリックさんも図書館にいらしたんですね?」
ハンネスが新しい食材のことが書かれた本を何冊も持ってきた。
「あ、ハンネスしゃん、この本でしゅ! 見ちゅかったのでこの本を持って調理場に帰りましょうね。おほほ、ヨリックしぇんしぇい、わたしたちは急ぎの用がありましゅので、お話の続きは明日お聞きしましゅわ。おほほほ」
逃げきった。ハンネスの手を引っ張って、ヨリックが見えなくなる位置まで、大急ぎでその場を離れたのだった。
調理場に戻ると、最初に見た不健康な色の小麦を調べることにした。
「この小麦は二十八ページに載っていた、アンバー・ラムデという品種でしゅ。グルテンは強いが伸びないのでスパゲティーやピザに向くと書いてましゅ。この白っぽい小麦は、ヒガ・ホワイトで、グルテンが弱く粒が柔らかいしょうでしゅよ」
「じゃあ、これは軟質小麦ですね。ではこの小麦でもパンケーキがお作りできますよ」
(なんですと! ハンネスさんの作る最上級パンケーキを、違う小麦で味わえるのですか?)
クワッと目を見開き喜んでいると、よほど締まりのない顔をしていたようで、ハンネスとシェフたちに「クスッ」と笑われてしまった。レオンティーヌは恥ずかしさをごまかすため、コホンと咳払いして次の袋の小麦を調べることにした。
「あれ? この小麦の種類がわからないでしゅ」
世界の小麦が載っている本ではなかったのか?と、思って唸っていたら、すぐにハンネスが正解を教えてくれた。
「麦の仲間ですが、これは大麦ですね」
「大麦って……じぇんじぇん大きくないよ? 小麦と変わらないの?」
「知識の神のご加護があるレオンティーヌ様でも、ご存じないことがおありだったのですね」
ハンネスが驚いた顔を見せた。
本はインプットできるけれど、前世から大麦と小麦の大きさの違いを知らずにここまできたので、改めて驚くレオンティーヌだった。
その日の夕食は少しだけ遅れたテオドルスと、いつものように一緒に食べることができた。
「今日はレオンティーヌがハンネスと一緒に小麦のことを調べてくれたおかげで、輸入する品種を絞れたよ。ありがとう」
テオドルスに言われたレオンティーヌは、計画通りにテオドルスとご飯を食べられて嬉しかったことに加え、褒めてもらえて大満足である。
「おとーしゃまの役に立てて嬉しいでしゅ!」
大好きな父に喜んでもらえるということは、レオンティーヌの存在が認められているようで、心に安心感と自信が湧いてくる。このスキルが、心の奥底にあるレオンティーヌの不安を一掃してくれる大きな拠(よ)り所(どころ)となっていたのだ。
食事中、テオドルスが小さくため息をつく。しかし、それをレオンティーヌに悟られまいとするように笑顔を作ったが、ごまかされるレオンティーヌではない。
「おとーしゃま、何か気がかりなことがあるんでしゅか?」
少し考えていたテオドルスは、大丈夫だと言わんばかりに少しだけ話してくれた。
「サミュエルから少し、気になる話を聞いたものでね。一匹の豆粒ほどの黒いスライムを見つけたらしいのだ。しかし、すぐに退治したそうなので、大丈夫だ」
黒いスライムは以前も発生したことがある。麦の穂先に引っつく小さな害虫のような存在で、麦を枯らしてしまうのだ。薬園で働き、創薬研究所所長でもあるサミュエル・ランゲが退治したというなら大丈夫だと思うが、レオンティーヌはテオドルスが一瞬見せた不安げな表情が気になった。
「まだ被害も何も出ていない話だからね。ほら、レオンティーヌ。たくさん食べなさい」
テオドルスに話をはぐらかされてしまったが、せっかくの食事なので、レオンティーヌも楽しく食事を再開したのだった。
「ハンネスしゃん、お腹がしゅいたのでしゅが、今は大丈夫でしゅか?」
難しい顔をして袋を覗(のぞ)き込んでいたハンネスだったが、声をかけると晴れやかな顔になり、すぐに立ち上がってレオンティーヌの方に来てくれる。
「もうそろそろ、いらっしゃる頃だろうと思い、クッキーを焼いてお待ちしておりましたよ」
レオンティーヌ専用のテーブルに、可愛らしくハート型に型抜きされたクッキーが置かれた。
「ふわあ、可愛い形だ! しかもバターたっぷりで濃厚でおいしいでしゅ。いつもありがとう」
レオンティーヌがおいしそうに頬張っていると、他のシェフも集まってきた。
「さっきまで恐ろしい顔で唸(うな)っていたハンネス料理長が、今は別人のようにとろける笑顔になって、怖いくらいですよ」
言われたハンネスは、余計なことを言うなと言わんばかりにそのシェフを睨(にら)む。そして、レオンティーヌが食べ終わるのをホクホク顔で見守っていた。
「おいしかったでしゅ。ハンネスしゃん、ごちそうしゃまでちた」
空腹も収まり、満足したレオンティーヌは調理場に置かれた袋に目をやった。
そういえば、調理場に入ってきた時に、ハンネスは悩んでいるようだったなと、レオンティーヌは思い返す。
「ハンネスしゃん、しゃっき覗いていた袋の中には、何が入っていたのでしゅか?」
レオンティーヌが尋ねると、ハンネスは山積みにされた袋の中の一つを持ってきた。レオンティーヌに見せるようにして、中身を開くと小麦が入っていた。
玄米は見たことがあるが、実物を初めて見たのでその黄色がかった茶色にびっくりする。
「健康的な夏のお肌のことを小麦色というらしいでしゅが、この黄色がかった小麦の色が健康的な色でしゅと?」
海水浴で浮輪を抱えたお姉様や、マッチョなお兄さんとのギャップがありすぎて、唖然としていたら、「他の色の小麦もありますよ」とハンネスが違う袋も持ってきて見せてくれた。
そこには赤みが強い小麦、白っぽい小麦と色々な種類があったのだ。
「小麦ってこんなに多くの種類があるんでしゅね。知らなかった……」
図鑑に載っている小麦は、だいたい収穫前の穂先がつんつんしている植物の状態で、刈り取られたあとどんなふうになるのかまでは載っていないのだ。
そういえば、今までパンやうどんなど小麦を使った料理をたくさん食べてはいるが、詳しくは知らない。今食べているクッキーも小麦からできているのだなと思うと、改めて小麦の奥深さを感じる。
「しょれで、しゃっきはどうちてあんなに難しい顔をしていたのでしゅか?」
小麦のことは後回しで、レオンティーヌのためにクッキーを小袋に詰めているハンネスに聞いた。
「他国の品種の小麦を輸入する前に試して、我が国に合う小麦を選び出してほしいと言われ、安易に了承したのです。そうしたら、まさかこんなに多くの品種が届くなんて思ってもみなくて……。それに品種名が書いていなくて困っておりました」
「しょういえば、おとーしゃまも小麦のことを言ってまちた。小麦ってこんなにいっぱいの種類があるんでしゅね」
前世で料理下手だったレオンティーヌも、強力粉と薄力粉があるのは知っている。だが、料理長ともなるとその二種類の違いで悩んでいるのではなさそうだ。
ハンネスが言うには甘みや水分量、たんぱく量、灰分量の違いで品種を見分けるらしい。しかも小麦粉になった粉を触ると、品質の違いもわかるという。
ここでレオンティーヌは、王宮図書館で『世界の小麦とその分類』というタイトルの本があったのを思い出した。
(もし、私が小麦の特性についてハンネスさんにきちんとした情報を伝えてあげられると、早く選定できて、今日のお父様との話し合いもスムーズに行えるかも! そしたら、お父様が早く帰ってこられる。皆ウィンウィンでは?)
レオンティーヌが生き生きとした瞳でハンネスに提案する。
「ハンネスしゃん、この小麦のことが詳しくわかるかも知れましぇん。図書館に行ってくるので、ちょっと待っていてくれましぇんか?」
レオンティーヌは一人で図書館に行こうと思ったが、慌ててエプロンを外したハンネスに抱き上げられた。
「じゃあ、私がご一緒させていただきます。私も図書館に用事がありますので!」
ハンネスがニコニコしている後ろで、シェフたちがひそひそと囁(ささや)いている。
「レオンティーヌ様と遊びたいだけでしょう」やら、「絶対に図書館に用事なんてなかったと思いますけど……」と。
そんな声を聞きながら、レオンティーヌとハンネスはシェフたちに見送られて図書館に向かったのだった。
図書館に着いたレオンティーヌはすぐに本の題名を言って、司書に場所を教えてもらう。そのブースに着くと、食物や食材に関する本が多く並んでいて、ハンネスも何冊か手に取って読み始めている。
捜していた『世界の小麦とその分類』という本はすぐに見つかった。
ぺらりと表紙をめくると、レオンティーヌの瞳は緑色から金色に輝く。次の瞬間、本の文字が光って浮き上がった。そして、金色の糸のように連なると、うねりながら空中を移動し、するするとレオンティーヌの体に吸い込まれていった。
そう、これでこの本の知識はすべてレオンティーヌに入ったのだ。
「うん、完璧でしゅ。しゃっき見た小麦の品種もわかりまちたよ。あ、せっかく図書館に来たのだから、もう何冊か読んでいきましょう!」
ルンルン気分で隣の本に手をかけたが、その本を取り出すことはできなかった。
「まだお読みになるつもりですか?」
突然、厳しい声がレオンティーヌの背中に突き刺さった。
伸ばしていた手を引っ込めて、恐る恐る振り返ると、そこには鬼が!ではなく、家庭教師のヨリックが立っている。
「こ、ここ、これはヨリックしぇんしぇい。えっと、これはしょの、あの……」
人間は急に何かが起こると、本当に頭が真っ白になる。しどろもどろのレオンティーヌに、さらに詰め寄るヨリック。
「朝の授業で、すでに規定数の本を読んでしまわれたので、今日はもう読書しないという約束でしたよね? それなのに、先ほど、レオンティーヌ様が本を一冊読み終えたのを、私ははっきりとこの目で見ましたけど?」
魔力がある人には、レオンティーヌのスキルが発動した時に起こる金色の糸が見えるため、読んだことが盛大にばれてしまうのだ。自分のスキルが恨めしい。
レオンティーヌの読書量について、ヨリックが厳しく制限するのには理由がある。それは彼女が本をインプットするには、彼女の魔力を消費するので、多くインプットしすぎると魔力切れを起こし命の危険を伴うからだ。
だが、本好きなレオンティーヌはうっかり忘れて、今まさにのんきに本を読んだ上にもう一冊手に取ろうとしていたのだから、ヨリックが腕を組み、雷を落とそうとしていてもしかたがない。
しかし、救世主はいつも身近にいるのだ。
「レオンティーヌ様、小麦のことがおわかりになりましたか? あ、ヨリックさんも図書館にいらしたんですね?」
ハンネスが新しい食材のことが書かれた本を何冊も持ってきた。
「あ、ハンネスしゃん、この本でしゅ! 見ちゅかったのでこの本を持って調理場に帰りましょうね。おほほ、ヨリックしぇんしぇい、わたしたちは急ぎの用がありましゅので、お話の続きは明日お聞きしましゅわ。おほほほ」
逃げきった。ハンネスの手を引っ張って、ヨリックが見えなくなる位置まで、大急ぎでその場を離れたのだった。
調理場に戻ると、最初に見た不健康な色の小麦を調べることにした。
「この小麦は二十八ページに載っていた、アンバー・ラムデという品種でしゅ。グルテンは強いが伸びないのでスパゲティーやピザに向くと書いてましゅ。この白っぽい小麦は、ヒガ・ホワイトで、グルテンが弱く粒が柔らかいしょうでしゅよ」
「じゃあ、これは軟質小麦ですね。ではこの小麦でもパンケーキがお作りできますよ」
(なんですと! ハンネスさんの作る最上級パンケーキを、違う小麦で味わえるのですか?)
クワッと目を見開き喜んでいると、よほど締まりのない顔をしていたようで、ハンネスとシェフたちに「クスッ」と笑われてしまった。レオンティーヌは恥ずかしさをごまかすため、コホンと咳払いして次の袋の小麦を調べることにした。
「あれ? この小麦の種類がわからないでしゅ」
世界の小麦が載っている本ではなかったのか?と、思って唸っていたら、すぐにハンネスが正解を教えてくれた。
「麦の仲間ですが、これは大麦ですね」
「大麦って……じぇんじぇん大きくないよ? 小麦と変わらないの?」
「知識の神のご加護があるレオンティーヌ様でも、ご存じないことがおありだったのですね」
ハンネスが驚いた顔を見せた。
本はインプットできるけれど、前世から大麦と小麦の大きさの違いを知らずにここまできたので、改めて驚くレオンティーヌだった。
その日の夕食は少しだけ遅れたテオドルスと、いつものように一緒に食べることができた。
「今日はレオンティーヌがハンネスと一緒に小麦のことを調べてくれたおかげで、輸入する品種を絞れたよ。ありがとう」
テオドルスに言われたレオンティーヌは、計画通りにテオドルスとご飯を食べられて嬉しかったことに加え、褒めてもらえて大満足である。
「おとーしゃまの役に立てて嬉しいでしゅ!」
大好きな父に喜んでもらえるということは、レオンティーヌの存在が認められているようで、心に安心感と自信が湧いてくる。このスキルが、心の奥底にあるレオンティーヌの不安を一掃してくれる大きな拠(よ)り所(どころ)となっていたのだ。
食事中、テオドルスが小さくため息をつく。しかし、それをレオンティーヌに悟られまいとするように笑顔を作ったが、ごまかされるレオンティーヌではない。
「おとーしゃま、何か気がかりなことがあるんでしゅか?」
少し考えていたテオドルスは、大丈夫だと言わんばかりに少しだけ話してくれた。
「サミュエルから少し、気になる話を聞いたものでね。一匹の豆粒ほどの黒いスライムを見つけたらしいのだ。しかし、すぐに退治したそうなので、大丈夫だ」
黒いスライムは以前も発生したことがある。麦の穂先に引っつく小さな害虫のような存在で、麦を枯らしてしまうのだ。薬園で働き、創薬研究所所長でもあるサミュエル・ランゲが退治したというなら大丈夫だと思うが、レオンティーヌはテオドルスが一瞬見せた不安げな表情が気になった。
「まだ被害も何も出ていない話だからね。ほら、レオンティーヌ。たくさん食べなさい」
テオドルスに話をはぐらかされてしまったが、せっかくの食事なので、レオンティーヌも楽しく食事を再開したのだった。