冷徹国王の愛娘は本好きの転生幼女~この世の本すべてをインプットできる特別な力で大好きなパパと国を救います!~
レオンティーヌが離宮から脱走した二日後から、ヨリックとの授業は、サミュエルの薬園の隣の研究所の一室で行われることになった。
当初オルガは、なぜそんなところで授業をするのだ、と抗議していたが、レオンティーヌがうまくオルガを丸め込んだ。サミュエルの薬園には、エイジングケアの薬草があるらしいと言えば、すんなりと了承してくれたのだ。
そして、オルガも授業に行く前にはこそっと、でもしっかり薬草のおねだり。
「レオンティーヌ様、ちょこっとでもいいので、サミュエル様にお願いしてみてくださいね」
「まかしぇてくだしゃい。例のものはかならじゅゲットしてきましゅ!」
女性とはいくつになっても美しくありたいし、乳母といっても彼女は二十九歳。まだまだ女盛りだ
「いってらっしゃい」と満面の笑みで手を振って見送ってくれたのだった。
薬園に着くと、レオンティーヌはサミュエルと共に、薬草を探すところから始まった。
まず、古文書をレオンティーヌが訳す。それを元に、サミュエルが薬草を探す……のだが、説明している文章が大雑把すぎて、わからないものが多い。
例えば、現在行きづまっている薬草でいうと、『葉先がギザギザで葉脈が薄く目立たない葉っぱ』としか書かれていないのだ。その情報だけで一万二千平方メートルの広さの敷地にある九千五百種類もの薬草の中から探し当てるなど不可能である。
古文書に書かれた薬草が全く見当もつかず、二人で頭を抱えていた。
少し休憩をとってから違う手段を試みようとなる。この休憩の合間にもヨリックから前の日授業で見せられた薬草図鑑と同じ草花を間近で観察し、その特徴を教わっている。特に毒にも薬にもなるという植物は、ルーペで見て詳しく調べた。
その勉強も一段落したレオンティーヌは、サミュエルに質問をする。
「サミュエルしゃんは、誰の病気を治したいのでしゅか?」
テオドルスが妻を亡くしてから、長い間レオンティーヌとは距離を置いていて、会っていないことは有名だ。
「それは……その……テオドルス陛下の頭痛がひどいということで、陛下に合うお薬を作りたいのです」
レオンティーヌは大きく瞬きを二回して動きを止めた。レオンティーヌはテオドルスの名前を聞いて、胸の奥に鉛の玉が落ちてきた感じがしたが、今までにない感情で泣きたいのか、怒りたいのか、どうしたいのかわからない。
ただ、レオンティーヌは「しょっかー……」と言うのが精いっぱいだった。
まだ二歳のレオンティーヌには、父が、全く会いに来ないという事実はつらいものだ。しかも、同じ王宮にいるのにである。
行き詰るサミュエルに落ち込むレオンティーヌ。この状況を見かねたヨリックは、レオンティーヌが行きたがっていた王宮外にある図書館に行って、薬草図鑑を探そうと提案した。
図書館という単語に、レオンティーヌは急に元気になる。
「町に出りゅのも初めてだし、図書館も行ってみたかったんでしゅ!」
「お忍びなので、完全な変装スタイルで行きますよ」
レオンティーヌにとって、お忍びと変装というワードはなんだかスリリングで魅力的。耳にするだけで、すでにうきうきしてしまう。
休憩もそこそこに、ヨリックがオルガに事情を話し、急いでレオンティーヌは着替えをすませた。
そして、完成したのが可愛い町の少女。
レオンティーヌは町に溶け込む衣装でよかった。だが、サミュエルとヨリックが問題だった。
ヨリックは黒髪の短髪眼鏡のイケメン、サミュエルは緑のふわふわの髪を無造作に伸ばしたこれまたイケメンだ。
この二人に連れられた二歳児。目立つし、高身長の二人に挟まれて歩くと、余計に恥ずかしい。
(イケメン好き、または腐女子の皆さんからしたら、私はお邪魔な位置にいますよね?)
居たたまれない思いをしたが、初めての町歩きに感激していると、それもすぐに忘れて大はしゃぎ。
「町並みがしゅてきー! あのおみしぇに入ってもいい?」
指差したのは、いかにも住民に愛されていそうな、町の本屋さん然とした古く小さな書店だった。
こんな町中で、あのスキルを見せるわけにはいかないと、ヨリックは必死に止める。
「ダメだ!」
「なんで?」
「ダメなものはダメ!」
「だから、なんで?」
このやり取りを、二回繰り返す。それでも諦めないレオンティーヌに、ヨリックが必殺正論『立ち読み禁止!』を突きつけて黙らせることに成功する。
渋々諦めたレオンティーヌは、本来の目的地である図書館に向かうのであった。
可愛い街並みに合わない、教会のような厳(いか)めしい建物が姿を現す。この建物が王都にある有名なバリオーノ図書館である。
バリオーノ図書館には大勢の人が出入りをしていて、利用者が多いことがわかった。
入り口を一歩入ると、見渡す限りの本棚。ワックスがかけられた木の床は、艶のある焦げ茶色で、重厚感を漂わせていた。この歴史ある王立図書館の雰囲気にぴったりである。
司書をしていただけあって、ヨリックは何度もここを訪れたことがあるようだ。彼はレオンティーヌたちを先導し、脇目も振らず、まっすぐに植物の本が並んでいる棚までやって来た。前の棚も後ろの棚もすべて薬草関係らしい。
思っていた以上の本の数に圧倒されるレオンティーヌの横で、サミュエルは脱力している。
「この中から目当ての植物を探すのか……ふぅぅぅぅぅ」
肺の中の空気をすべて出しきったのではなかろうか?というほど、サミュエルが長いため息をつく。
「でも、頑張るよ」と立ち直り、彼は一冊の本を手に取って一心不乱にページをめくる。『葉先がギザギザ、葉脈が薄い……』と念仏のように唱えながら。
そんなサミュエルの様子を横目で見ながら、レオンティーヌは、ここが奥まっていて見えにくい場所でよかったと思った。
レオンティーヌとヨリックは頷くと片っ端から薬草に関する本を開いていく。隣のサミュエルには金色の糸は見えないことは確認済みなので、気にすることなく本を広げた。
『薬草植物図鑑』はもちろん、他には『蔦(つた)に恋した僕の日常』というエッセイまでも開いてインプット。
ひそひそとヨリックがレオンティーヌに聞く。
「見つかりましたか?」
「まだでしゅ。もっと持ってきてくだしゃい」
オッケーサインを出すヨリック。
そして、ヨリックが慎重に選んだ本を、開いていた三分後。
「ありまちた!」
レオンティーヌの声より先にサミュエルがこっちを向いていた。しかも、目を見開いている。でも、大丈夫だ。サミュエルは金色の糸が見えないようだったし、そこは気にしなくてもよいのだが、問題はわずか三分しか経(た)っていないのに、サミュエルの五倍の本が積まれていることだ。
「もう、そんなに見たの? 二人で?」
苦笑いする二人を怪しみながらも、レオンティーヌが見つけたという植物を確認するサミュエル。
それは、たで科の植物で、とても小さい葉である。さすがのサミュエルもこれには気がつかなかった。想像していた葉は、もっと大きいものだと思っていたが、レオンティーヌが見つけたのは一センチにも満たない葉っぱなのだから。
だが、形状は葉先がギザギザで葉脈が薄く目立たないという、古文書に書いてある葉と条件は酷似している。
図鑑の絵を覗き込むように見つめながら、サミュエルは「お二人はどうしてこれが古文書の葉っぱだと思ったのですか?」と至極真っ当な質問を述べた。
「でしゅよね。たったあれだけのヒントから、『これ』って推すには弱しゅぎましゅよね? どう言い逃れしゅるのでしゅか?」
レオンティーヌは、こそっとヨリックに丸投げする。
『この子は、どんな書物の情報も一瞬で記憶できるので、正解も見つけられるんです』と言えるはずもなく、二人が言葉を探していると――。
「さっきから見ていたのですが、レオンティーヌ様はこの短時間ですべての本を吸収されて、知識を自分のものとしていたのではないですか?」
サミュエルが爆弾を投下してきた。
「ななな、なんでそう思ったのですか?」
「にゃんでーっ、にゃんでしょう思ったの?」
二人が同時に大声で叫んだせいで、飛んできた司書に注意される。
二人が十分に小さくなって反省したあとで、改まってサミュエルを見た。
「えっと、だって、開いた本から金色の粒が糸のように連なって、レオンティーヌ様の中に入っていくのが見えたんです」
「「え? え? ええ?」」とおどおどして訳がわからない二人。
「だって、最初におしょとで本を開いて見た時は、何も見えにゃかったって言ってたでしゅ」
ここで、ヨリックがのけ反って呻(うめ)き声を出す。
「あぁぁぁ……そうか、天気のいい日だったから、外では金色の糸が見えにくかったんだ!」
それを、レオンティーヌは、自分のスキルがサミュエルには見えないのだと誤解して、盛大に真横で本を開きまくっていたのである。
いうなれば……自爆。しかも派手にやってしまったようだ。
もうこうなったら、隠し通すことなんてできないと、レオンティーヌはヨリックと共に神妙な顔をして、洗いざらいカミングアウトした。
これを聞いたサミュエルは、再び長ーーいため息をついた。
「なるほど、レオンティーヌ様のスキルで古文書も読めたし、今回の薬草も見つけられたのか。それで、今レオンティーヌ様は古文書が読めて、植物図鑑もすべて覚えて最強になっているんですね」
最強という言葉に、ちょっと自慢げに「しょうでしゅね」とレオンティーヌは短い腕を組む。
これに対してヨリックは、まだこの能力が詳しくわかっていない以上、公にするのは避けたいとのことで、「どうぞご内密に」と繰り返していた。
「確かにこのようなスキルは、初めて見ました。わかるまで三人の秘密にしましょう」
サミュエルから、まるで『取り扱い注意』のような目でレオンティーヌは見られたのだった。
スキルがバレてしまったなら仕方ない。そう思ったレオンティーヌは古文書に書かれた頭痛に効く薬の材料をすべて翻訳し、得た知識を包み隠すことなくサミュエルに伝えた。
するとさくさく薬づくりは進んでいき……。
「できましたよ。これです」
サミュエルがビーカーに入った茶色い飲み物を見せてくれたが、少し離れていても苦そうなにおいがする
「これで、おとーしゃまはよくなるの?」
「ええ、絶対によくなりますよ! しかもレオンティーヌ様と一緒に作ったと言えば、テオドルス陛下も感激してくださるでしょう!」
サミュエルがさも嬉しそうに言う。
「ほえ? おとーしゃまに言うの?」
考えてもみなかったことにレオンティーヌは慌てる。
「わたしのことを言う前に、そのくしゅりをちょっと飲ましぇてくだしゃい」
二歳の幼児は薬を飲めない。だから、サミュエルは渋ったが、手足をバタバタさせて食い下がるレオンティーヌに根負けして、ちょっと舐(な)める程度ならと許した。
そして指先につけた薬をぺろり。
「にっっがぁー!! ダメでしゅ、サミュエルしゃん。じぇったいにわたしの名前を出してはいけましぇん。こんなに苦いくしゅりを飲まなければならなくなったら、きっと、わたしはおとーしゃまに恨まれてしまいましゅ。じぇったいに、わたしの名前を出しゃにゃいでくだしゃい!」
普段から会ってもくれない父親なのに、さらにこれ以上嫌われたら王宮から追放されてしまうかもしれない。
だから、ここはちゃんと『言わない』という言(げん)質(ち)をとらないと、とレオンティーヌは必死になる。
「そんなにおっしゃるのでしたら、言わないでおきます。でも、絶対にお喜びになると思うのですが……」
残念そうにするが、しつこく頼むレオンティーヌに最後は同意してくれたサミュエルだった。
当初オルガは、なぜそんなところで授業をするのだ、と抗議していたが、レオンティーヌがうまくオルガを丸め込んだ。サミュエルの薬園には、エイジングケアの薬草があるらしいと言えば、すんなりと了承してくれたのだ。
そして、オルガも授業に行く前にはこそっと、でもしっかり薬草のおねだり。
「レオンティーヌ様、ちょこっとでもいいので、サミュエル様にお願いしてみてくださいね」
「まかしぇてくだしゃい。例のものはかならじゅゲットしてきましゅ!」
女性とはいくつになっても美しくありたいし、乳母といっても彼女は二十九歳。まだまだ女盛りだ
「いってらっしゃい」と満面の笑みで手を振って見送ってくれたのだった。
薬園に着くと、レオンティーヌはサミュエルと共に、薬草を探すところから始まった。
まず、古文書をレオンティーヌが訳す。それを元に、サミュエルが薬草を探す……のだが、説明している文章が大雑把すぎて、わからないものが多い。
例えば、現在行きづまっている薬草でいうと、『葉先がギザギザで葉脈が薄く目立たない葉っぱ』としか書かれていないのだ。その情報だけで一万二千平方メートルの広さの敷地にある九千五百種類もの薬草の中から探し当てるなど不可能である。
古文書に書かれた薬草が全く見当もつかず、二人で頭を抱えていた。
少し休憩をとってから違う手段を試みようとなる。この休憩の合間にもヨリックから前の日授業で見せられた薬草図鑑と同じ草花を間近で観察し、その特徴を教わっている。特に毒にも薬にもなるという植物は、ルーペで見て詳しく調べた。
その勉強も一段落したレオンティーヌは、サミュエルに質問をする。
「サミュエルしゃんは、誰の病気を治したいのでしゅか?」
テオドルスが妻を亡くしてから、長い間レオンティーヌとは距離を置いていて、会っていないことは有名だ。
「それは……その……テオドルス陛下の頭痛がひどいということで、陛下に合うお薬を作りたいのです」
レオンティーヌは大きく瞬きを二回して動きを止めた。レオンティーヌはテオドルスの名前を聞いて、胸の奥に鉛の玉が落ちてきた感じがしたが、今までにない感情で泣きたいのか、怒りたいのか、どうしたいのかわからない。
ただ、レオンティーヌは「しょっかー……」と言うのが精いっぱいだった。
まだ二歳のレオンティーヌには、父が、全く会いに来ないという事実はつらいものだ。しかも、同じ王宮にいるのにである。
行き詰るサミュエルに落ち込むレオンティーヌ。この状況を見かねたヨリックは、レオンティーヌが行きたがっていた王宮外にある図書館に行って、薬草図鑑を探そうと提案した。
図書館という単語に、レオンティーヌは急に元気になる。
「町に出りゅのも初めてだし、図書館も行ってみたかったんでしゅ!」
「お忍びなので、完全な変装スタイルで行きますよ」
レオンティーヌにとって、お忍びと変装というワードはなんだかスリリングで魅力的。耳にするだけで、すでにうきうきしてしまう。
休憩もそこそこに、ヨリックがオルガに事情を話し、急いでレオンティーヌは着替えをすませた。
そして、完成したのが可愛い町の少女。
レオンティーヌは町に溶け込む衣装でよかった。だが、サミュエルとヨリックが問題だった。
ヨリックは黒髪の短髪眼鏡のイケメン、サミュエルは緑のふわふわの髪を無造作に伸ばしたこれまたイケメンだ。
この二人に連れられた二歳児。目立つし、高身長の二人に挟まれて歩くと、余計に恥ずかしい。
(イケメン好き、または腐女子の皆さんからしたら、私はお邪魔な位置にいますよね?)
居たたまれない思いをしたが、初めての町歩きに感激していると、それもすぐに忘れて大はしゃぎ。
「町並みがしゅてきー! あのおみしぇに入ってもいい?」
指差したのは、いかにも住民に愛されていそうな、町の本屋さん然とした古く小さな書店だった。
こんな町中で、あのスキルを見せるわけにはいかないと、ヨリックは必死に止める。
「ダメだ!」
「なんで?」
「ダメなものはダメ!」
「だから、なんで?」
このやり取りを、二回繰り返す。それでも諦めないレオンティーヌに、ヨリックが必殺正論『立ち読み禁止!』を突きつけて黙らせることに成功する。
渋々諦めたレオンティーヌは、本来の目的地である図書館に向かうのであった。
可愛い街並みに合わない、教会のような厳(いか)めしい建物が姿を現す。この建物が王都にある有名なバリオーノ図書館である。
バリオーノ図書館には大勢の人が出入りをしていて、利用者が多いことがわかった。
入り口を一歩入ると、見渡す限りの本棚。ワックスがかけられた木の床は、艶のある焦げ茶色で、重厚感を漂わせていた。この歴史ある王立図書館の雰囲気にぴったりである。
司書をしていただけあって、ヨリックは何度もここを訪れたことがあるようだ。彼はレオンティーヌたちを先導し、脇目も振らず、まっすぐに植物の本が並んでいる棚までやって来た。前の棚も後ろの棚もすべて薬草関係らしい。
思っていた以上の本の数に圧倒されるレオンティーヌの横で、サミュエルは脱力している。
「この中から目当ての植物を探すのか……ふぅぅぅぅぅ」
肺の中の空気をすべて出しきったのではなかろうか?というほど、サミュエルが長いため息をつく。
「でも、頑張るよ」と立ち直り、彼は一冊の本を手に取って一心不乱にページをめくる。『葉先がギザギザ、葉脈が薄い……』と念仏のように唱えながら。
そんなサミュエルの様子を横目で見ながら、レオンティーヌは、ここが奥まっていて見えにくい場所でよかったと思った。
レオンティーヌとヨリックは頷くと片っ端から薬草に関する本を開いていく。隣のサミュエルには金色の糸は見えないことは確認済みなので、気にすることなく本を広げた。
『薬草植物図鑑』はもちろん、他には『蔦(つた)に恋した僕の日常』というエッセイまでも開いてインプット。
ひそひそとヨリックがレオンティーヌに聞く。
「見つかりましたか?」
「まだでしゅ。もっと持ってきてくだしゃい」
オッケーサインを出すヨリック。
そして、ヨリックが慎重に選んだ本を、開いていた三分後。
「ありまちた!」
レオンティーヌの声より先にサミュエルがこっちを向いていた。しかも、目を見開いている。でも、大丈夫だ。サミュエルは金色の糸が見えないようだったし、そこは気にしなくてもよいのだが、問題はわずか三分しか経(た)っていないのに、サミュエルの五倍の本が積まれていることだ。
「もう、そんなに見たの? 二人で?」
苦笑いする二人を怪しみながらも、レオンティーヌが見つけたという植物を確認するサミュエル。
それは、たで科の植物で、とても小さい葉である。さすがのサミュエルもこれには気がつかなかった。想像していた葉は、もっと大きいものだと思っていたが、レオンティーヌが見つけたのは一センチにも満たない葉っぱなのだから。
だが、形状は葉先がギザギザで葉脈が薄く目立たないという、古文書に書いてある葉と条件は酷似している。
図鑑の絵を覗き込むように見つめながら、サミュエルは「お二人はどうしてこれが古文書の葉っぱだと思ったのですか?」と至極真っ当な質問を述べた。
「でしゅよね。たったあれだけのヒントから、『これ』って推すには弱しゅぎましゅよね? どう言い逃れしゅるのでしゅか?」
レオンティーヌは、こそっとヨリックに丸投げする。
『この子は、どんな書物の情報も一瞬で記憶できるので、正解も見つけられるんです』と言えるはずもなく、二人が言葉を探していると――。
「さっきから見ていたのですが、レオンティーヌ様はこの短時間ですべての本を吸収されて、知識を自分のものとしていたのではないですか?」
サミュエルが爆弾を投下してきた。
「ななな、なんでそう思ったのですか?」
「にゃんでーっ、にゃんでしょう思ったの?」
二人が同時に大声で叫んだせいで、飛んできた司書に注意される。
二人が十分に小さくなって反省したあとで、改まってサミュエルを見た。
「えっと、だって、開いた本から金色の粒が糸のように連なって、レオンティーヌ様の中に入っていくのが見えたんです」
「「え? え? ええ?」」とおどおどして訳がわからない二人。
「だって、最初におしょとで本を開いて見た時は、何も見えにゃかったって言ってたでしゅ」
ここで、ヨリックがのけ反って呻(うめ)き声を出す。
「あぁぁぁ……そうか、天気のいい日だったから、外では金色の糸が見えにくかったんだ!」
それを、レオンティーヌは、自分のスキルがサミュエルには見えないのだと誤解して、盛大に真横で本を開きまくっていたのである。
いうなれば……自爆。しかも派手にやってしまったようだ。
もうこうなったら、隠し通すことなんてできないと、レオンティーヌはヨリックと共に神妙な顔をして、洗いざらいカミングアウトした。
これを聞いたサミュエルは、再び長ーーいため息をついた。
「なるほど、レオンティーヌ様のスキルで古文書も読めたし、今回の薬草も見つけられたのか。それで、今レオンティーヌ様は古文書が読めて、植物図鑑もすべて覚えて最強になっているんですね」
最強という言葉に、ちょっと自慢げに「しょうでしゅね」とレオンティーヌは短い腕を組む。
これに対してヨリックは、まだこの能力が詳しくわかっていない以上、公にするのは避けたいとのことで、「どうぞご内密に」と繰り返していた。
「確かにこのようなスキルは、初めて見ました。わかるまで三人の秘密にしましょう」
サミュエルから、まるで『取り扱い注意』のような目でレオンティーヌは見られたのだった。
スキルがバレてしまったなら仕方ない。そう思ったレオンティーヌは古文書に書かれた頭痛に効く薬の材料をすべて翻訳し、得た知識を包み隠すことなくサミュエルに伝えた。
するとさくさく薬づくりは進んでいき……。
「できましたよ。これです」
サミュエルがビーカーに入った茶色い飲み物を見せてくれたが、少し離れていても苦そうなにおいがする
「これで、おとーしゃまはよくなるの?」
「ええ、絶対によくなりますよ! しかもレオンティーヌ様と一緒に作ったと言えば、テオドルス陛下も感激してくださるでしょう!」
サミュエルがさも嬉しそうに言う。
「ほえ? おとーしゃまに言うの?」
考えてもみなかったことにレオンティーヌは慌てる。
「わたしのことを言う前に、そのくしゅりをちょっと飲ましぇてくだしゃい」
二歳の幼児は薬を飲めない。だから、サミュエルは渋ったが、手足をバタバタさせて食い下がるレオンティーヌに根負けして、ちょっと舐(な)める程度ならと許した。
そして指先につけた薬をぺろり。
「にっっがぁー!! ダメでしゅ、サミュエルしゃん。じぇったいにわたしの名前を出してはいけましぇん。こんなに苦いくしゅりを飲まなければならなくなったら、きっと、わたしはおとーしゃまに恨まれてしまいましゅ。じぇったいに、わたしの名前を出しゃにゃいでくだしゃい!」
普段から会ってもくれない父親なのに、さらにこれ以上嫌われたら王宮から追放されてしまうかもしれない。
だから、ここはちゃんと『言わない』という言(げん)質(ち)をとらないと、とレオンティーヌは必死になる。
「そんなにおっしゃるのでしたら、言わないでおきます。でも、絶対にお喜びになると思うのですが……」
残念そうにするが、しつこく頼むレオンティーヌに最後は同意してくれたサミュエルだった。