これを恋と呼んでもいいですか?
二話
二話

〇部屋の中(リビングルーム)

聖「お邪魔します…」
聖は恐る恐る振り返りもしない久東帆高の後ろを歩く。
連れてこられたのは広すぎるリビングルーム。

天井の高さに、窓の大きさ、置いてあるソファやテーブルなどはどれも高級品に見えた。

聖「うわぁ…すごく汚い…」

思わずそう口に出すほど、衣類や食器類が散らかっている。

腕を組みながら帆高は素直に口に出した聖を見下ろした。

聖はまずい、と思い口元を手で覆う。

聖「すみません、思ったことを…つい、」
帆高「いや、それはいい。本当のことだからな。移動も多いからホテルの宿泊も多い。家事が苦手なのに家にいる時間も少ないんだ」
聖「大丈夫です!任せてください!お忙しい久東さんに代わって私が頑張りますので!」

自信満々にそう言う聖を表情変えずに見下ろす帆高。

聖(女性が苦手だって聞いたし、できるだけプライベートに入り込まないように仕事はちゃんとやろう。明日追い出されたら困るから)

聖は帆高の忙しい事情もプライベートにずかずか入り込んでくることも嫌いなことを念頭に置いて、帆高に接する。

帆高「まず部屋の案内をする」
聖「わかりました」


〇各部屋

リビングルームのほかにバスルームなどを案内される。
その他の部屋はほぼ使われていないようだった。
荷物が置かれただけの部屋もある。

ある部屋のドアを開けて帆高がいう。

帆高「ここが君の部屋だ」
聖「ええ?ここが…私の部屋?」
帆高「とりあえず、布団と机、テーブルはあるから何かあれば言ってくれていい。ま、一か月だけの生活だからそこまで物は増やさない方がいいと思うが」

既に布団と机やテーブルが配置されてあった。
聖はぽかんと口を開けて固まる。
その様子に眉間にしわを刻む帆高。

帆高「どうした」
聖「あ…えっと、てっきりキッチンの下とかで寝るのかなと…」

今度は帆高が口をあんぐりさせる。
数秒後、帆高は噴き出すように笑った。

聖は、笑顔など見せるようには思えない帆高が笑っていることに驚く。

聖「ど、どうかしましたか?!」
帆高「いや、なんでそんな発想になるんだ。おかしいだろ。こんなに部屋が余っているのに、キッチンで眠るって」
聖「でも…十分広かったですし、衣食住確保されているので…」
帆高「そんなこと、俺が許すわけないだろ。基本俺の部屋の掃除はしなくていい。その他の掃除だけ頼む。一週間のうち半分は家に戻らないから俺の部屋以外は好きに使っていい。着替えだけ取りに来るから、コンシェルジュに預けてあるクリーニングしたシャツなど玄関にでもおいておいてくれ」
聖「分かりました」

帆高は取っつきにくく、怖い人間だと思っていたが、あまりにも自然に笑うのを見てつい聖は心の中で(…綺麗)と呟いていた。
笑った横顔はとても美しかった。

〇リビングルーム

帆高は疲れている様子だった。

帆高「一か月は君を雇うから、とりあえず前払いでこれ」

帆高はそう言うと自室から取ってきた財布からお金を取り出す。
当初聞いていた額よりもあきらかに多い額だと思い、聖は首を横に振りながら、それを突っぱねる。


聖「これは多すぎかと思います」
帆高「食費も含まれているからとりあえずそれで」
聖「じゃあ一緒に夕飯を…―」

しかし、帆高は目を細め、嫌そうに顔を逸らした。

帆高「いらない。基本食事の用意はいい。家政婦や家事代行を雇うときは食事以外を担当してもらっていたから」
聖「そうですか…」
帆高「いろいろ事情がありそうだから、勝手に食材買ってきて料理していいから。少し寝る」

帆高はそう言うと自室へ向かっていった。
その背中を見ながら、先ほど帆高が言っていた発言を思い出す。

聖「俺のプライベートには…踏み込まない、か…―」

帆高のあの笑みとはかけ離れた態度に少しだけ寂しさを覚える。

ただ、どうせ一か月だけの契約であり、一か月以内に自分は出ていくことを考えると、帆高のいう通り深入りは良くない。

聖(とにかく!仕事しなきゃ)

多めに貰ってしまったお金をそそくさとカバンにしまい込み、自前のエプロンを付けると聖は早速掃除に取り掛かった。


〇一時間後

洗濯の乾燥が終われば、ほぼ完ぺきに綺麗にできた。
家事の得意な聖はあっという間に終わらせることが出来た。

聖「ふぅ…。じゃあ、買い物でも行こうかな」

聖は自分の空腹もあり、買い物へ出かける。


〇帰宅後

買い物中は帆高は食事はいらないと言っていたが

聖(何も食べないなんて体に悪いよね)

一応帆高も食べられるような栄養のあるものを作ろうと思い台所へ立つ。

鼻歌を歌いながら、料理を作っていく。
手際もよく、料理も好きな聖は無意識に笑顔になっていた。


聖「よーし、出来た!」

作った料理はカレイの煮つけに、卵焼き、ゴボウサラダ、豚汁を作った。
どうみても一人分ではないその料理を見て聖は不安げな表情を浮かべる。
時刻を見ると、既に夕方だった。

聖(まだ起きてこないなぁ。仕事大変なんだろうなぁ。でも、あれこれ聞いたらダメ)
帆高の仕事内容は知らないが、普通の仕事ではないのだろう。
休みも少ないのかもしれない。

聖(一緒に食べたいな…)



聖は帆高のことを気にかけながらダイニングテーブルに料理を並べる。
二人分並べたいところだが、いらないと言われたため、手を合わせ「いただきます」というと食べ始めた。

〇回想
祖母と二人で笑いながら食事を取るのを思い出しながら食事をしている。

聖(…おばあちゃん、元気かなぁ。寂しいなぁ)


聖は思わず涙を溢していた。
手の甲で涙を拭う。

聖(こんなとき、誰でもいいから傍にいてほしい)

両親のいない聖はいつも祖母と一緒だった。だが、途中親戚に引き取られたり、複雑な家庭環境で育った。
それを思い出し、涙がこぼれてきた。

ちょうどその時、リビングルームに帆高が入ってきた。

帆高「……どうした?」

帆高は綺麗になった部屋に最初驚いた表情をしたが、すぐに顔を顰めた。
視線の先には、聖がいる。

聖「いや、何でもないです」
帆高「何でもないわけないだろ。なんで泣いてんだよ」
聖「泣いてないです」

頬から零れる涙を乱暴に拭う聖は目を逸らした。
ずんずんと目の前に来る帆高が聖の手を掴む。
まさか目の前に来るとは思っていなかった聖は「わ、」と小さく声を漏らす。

帆高「泣いてる。目も真っ赤だ」
聖「……」
帆高「俺の言い方が悪かったか?」

聖はまさかの返答に顔を上げた。

聖「そ、そんなわけないです!…祖母と一緒にご飯を食べていたことを思い出しただけです。ホームシックですよ、ただの」

強がる聖だったが、帆高は無言でキッチンへ向かった。

ボーっとその背中を見ると、自分の分の料理をよそっていた。

目を丸くする聖の正面に料理を並べる帆高は言う。

帆高「部屋も十分すぎるくらいに掃除がされている。ありがとう。俺の分の料理もあるみたいだから一緒に食べよう」
聖「…え、でも、」
帆高「いただきます」

帆高はそう言って食べ始める。

煮つけを食べた帆高は「美味い」と一言いう。

不器用なように見えるが、その言葉は聖の心を温かくさせた。

聖(気を使ってくれたんだ。いい人なんだ、この人は)

聖はにっこり笑った。

聖「嬉しいです。おかわりもありますよ」
帆高「そりゃそうだろうな。一人分の量じゃないからな」
聖「えへへ」

和やかな雰囲気が流れる。





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