孤独な令嬢と、ある教師の話。


オリヴィアはリーデル伯爵家の次女として生まれた。リーデル伯爵家は商会をいくつも経営している父のおかげで、他の伯爵家と比べると裕福だった。仕事でほぼ家にいないけど、帰る度にお土産を買って来てくれる父、身体が丈夫ではなく部屋にいることが多かったが優しい母、2つ上のお転婆な姉エルシアの4人家族。オリヴィアは自分はとても恵まれているのだと、信じていた。

しかし、そんな家族の中で過ごすうちに気になることが増えてきた。母のことだ。母はオリヴィアにはよく構ってくれたが姉にはそうでは無かった。オリヴィアの勘違いかと思ったが、その違和感はオリヴィアが5歳になった頃から顕著になっていく。例えば姉が絵を描いたから見て欲しいと強請っても、面倒臭そうに一瞥しただけで「よく書けてるわね」と一言かけて終わり。興味がないと、あからさまな態度だった。また、オリヴィアと姉が遊んでいる時にオリヴィアが自分の不注意で怪我をすると必ず姉を叱った。

「お姉ちゃんなのに、妹の面倒も見れないの?」

はぁ、とため息を吐いてゾッとするほど冷たい目で姉を見下ろす。オリヴィアや近くで見ていたメイドが姉に責任はないと説得しても無駄だった。姉は母に話しかけるのを躊躇うようになった。母はそれを望んでいたのか、殊更オリヴィアだけを可愛がるのだ。食事は皆で食堂で取るが、母はオリヴィアには話しかけるのに姉には一切話しかけない。「お母様!」と勇気を出して姉が話しかければ、「気分が悪くなった」と席を立つ始末。母のオリヴィアと姉への接し方の異常なまでの差はオリヴィアと姉の仲にも余所余所しさを生んでしまった。姉はオリヴィアに話しかけてくれなくなった。オリヴィアは姉との不和に耐えられず、何故母は姉に冷たいのか、聞いてしまった。

「だって、あの子わたくしに似てないから可愛くないのよ。顔を見てると虫唾が走るの。死んで欲しくなっちゃう」

そう虚な目で語る母にオリヴィアの背中に冷たいものが走る。母が知らない人間に見える。これは誰にも言ってはいけないのだと、子供ながらに悟った。

やがて母が蔑ろにする姉を使用人ですら軽んじ始めた。クスクスと陰口を叩く、適当に世話をする、母とオリヴィアのものとは違う、まるで残り物のような食事を出す、姉の部屋から勝手に服を持ち出し、サイズの合わない服を置く、と言った嫌がらせすら起こった。裾の短いドレスを着て、髪もボサボサで碌な手入れがされていない。反対に完璧な手入れをされているオリヴィア。姉を見ていると辛かった。

オリヴィアが使用人に辞めろと訴えても「奥様のご意向です」と全く聞き入れられない。母の元に突撃しても

「あの子には、あれがお似合いよ。オリヴィア、あなたはあんな子を気にするより、もっとやるべきことがあるでしょ?」

笑顔で言い聞かせる母が恐ろしかった。オリヴィアは自分が姉に構うと、母が姉に何かすると悟った。だから姉には関心を向けないようにした。そうすると段々と食事は改善していったらしく、少しふっくらとしてきた姉を遠目で見れてホッとした。

父が不在の中、この邸は母の支配下だ。父が帰って来れば、姉は救われるのだと半年に一度の帰宅を待ち侘びた。父に手紙を出したが母の息がかかった使用人が回収しているのか、父から返信は無い。その上出張先でトラブルがあったようで帰国が更に数ヶ月程遅くなると、使用人が話しているのを聞いた。母は父が暫く帰って来ないと知り、姉への仕打ちを悪化させた。廊下で見かける姉のサイズの合わないドレスから見える腕に傷やアザが見えた時、ゾッとした。そして父を待ってるだけでは駄目だと行動に移すことにした。

自分付きの信頼のおける侍女、リカに買い物に行くふりをして、父への手紙を出して欲しいと頼む。彼女は姉への嫌がらせに加担してなかったし、寧ろこの邸の異常な雰囲気を厭っているようだった。だから彼女に頼んだのだ。必死に頼み込んだ結果、彼女はオリヴィアの願いを叶えてくれた。

2週間後、何の前触れもなく父が帰り姉に嫌がらせをしていた使用人が止めるのも聞かず、姉の部屋に突撃した。サイズの合わないドレス、やつれた姿、そして腕にあるアザ。本来部屋にあった小物やアクセサリー、ドレスも部屋の中には無かった。父はオリヴィアの言葉が真実だと、自分の目で見て理解したのだ。

その後父は母に会いに行った。姉に対する仕打ちを叱責する父に対し、母は金切り声を上げて散々罵った後、部屋に篭って出て来なくなった。母の生家からついて来た侍女以外と顔を合わせなくなったらしい。母の命令に従って姉に嫌がらせをした使用人は解雇された。オリヴィアは気になって父の後をつけて、母との会話を盗み聞きした。
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