孤独な令嬢と、ある教師の話。
「あなたに髪も目の色も同じなのよ!愛せるわけないじゃない!」
「私のことが憎いのは分かるが、娘は関係ないだろう!」
「あなたの血を引いているだけで同罪よ!ジョエルと結婚するはずだったのに、無理矢理引き裂いた悪魔!」
「セシル、落ち着きなさ」
「わたくしの名前を呼ばないで!あなたもお父様たちも大っ嫌い!…地獄に堕ちろ」
鬼の形相で父を睨んだ母が、オリヴィアの見た「元気な母の姿」の最後だった。
母は侍女以外誰とも会わなくなった。ある日母方の祖父母を名乗る2人が屋敷を訪れた。しかし、母の怒鳴り声が邸に響いただけで碌な会話も出来なかったようだ。
オリヴィアは母と父が愛し合って結ばれた訳ではないと流石に気づき始めた。父と母は一回り以上歳が離れている。政略結婚なら珍しくない年齢差だ。
祖父母の来訪以来、邸の中である噂が流れ始める。母が父への憎しみを隠さなくなったことで、使用人も黙っている必要がなくなったのだ。
母には結婚する予定の恋人がいたのに、父がデビュタントで夜会に参加した母を見初めたせいで無理矢理別れさせられたと。それがおそらく「ジョエル」。
「ジョエル」は母の生家の使用人だった。母は公爵家の末っ子で、本来なら使用人との結婚は許されないが年の離れた母の姉達がそれぞれ国内の公爵家、他国の貴族に嫁いでいたことから、末っ子は自由にさせようという方針だったらしい。しかし、当時の公爵家は領地で発生した大雨による不作、事業の失敗による借金で資金難に陥った。そこで父が必要な資金を肩代わりする代わりに母を…という話になった。母は泣いて父とは結婚しないと抵抗したが、「ジョエル」が突然家族と一緒に行方知れずになってしまった。恋人がいなくなってしまった母は泣く泣く父に嫁いだらしい。しかし、嫁いだ母は父に歩み寄ろうという気すらなく、一目惚れして結婚した父もそんな母に気を遣うばかりで結婚当初からギクシャクしていたようだ。姉とオリヴィアを授かったのは奇跡だと、メイド達が話しているのを耳にした。
母が姉に冷たかった理由は理解出来た。では自分は?オリヴィアも父の血を引いているはずなのに。オリヴィアの髪色と目の色は父とは違う。でも母とも違う。髪色は母と同じ亜麻色だが、目の色はヘーゼル色だ。母は赤褐色なのに。母は曽祖母と同じ色だと、好きな色だと微笑んでいたけれど。
オリヴィアの脳裏に恐ろしい可能性が過ったが、無理矢理忘れることにした。