孤独な令嬢と、ある教師の話。


12歳の誕生日を迎えた日、数年ぶりに父に呼び出された。教会に行くから準備をしろ、とだけ告げられ背を向けられる。目を合わせることすらしない。もう父と以前のように話すことが出来ないことを、少しは悲しいと思う自分に驚いた。

一緒の馬車に乗り込むが当然会話はない。馬車の中の具合は重苦しく、地獄のようだった。早く教会に着いて、と祈るばかりだった。教会に着くと神父に案内され、個室に通される。中央に位置する台に大きな水晶玉が置かれており、これに手をかざし光ると魔力がありその輝きが強いほど魔力量が多いとされている。

オリヴィアは恐る恐る水晶玉の上に手をかざす。すると水晶玉が眩しいほど輝き出す。それを見た神父が感嘆の声を上げる。

「この輝きは…『上級』。かなりの魔力量です。訓練すれば優秀な魔術師になれる素質がありますよ」

オリヴィアは心の中でガッツポーズを取った。自分の描いていた将来設計図に狂いが生じなかったからだ。もし何も無かったら文官志望にするつもりだった。そのための勉強も怠らなかったので、どっちの道に進んでも問題ないよう準備していたのだ。

「…そうか」

笑顔の神父と対照的に父の表情は険しい。寧ろ憎しみすら感じさせ、神父が戸惑っている。普通我が子に魔術師の素質があれば喜ぶものなのに、父の反応は異常なのだ。しかし、何か事情があると察した神父は踏み込んでくることはなかった。

オリヴィアは当然おめでとうの言葉一つかけられることなく、そのまま馬車に戻って行った。

「…エルシアは魔力なしだったというのに、何故お前が…」

ボソリと呟かれた父の言葉をオリヴィアの耳は拾っていた。姉は魔力がなかったので学園の普通科に通っている。家を継ぐ予定の姉は魔力ありだとしても魔術科に通うことは難しかったが、父が言いたいことはそうではないのだ。父の家系は魔力が多い方ではなく、父も魔力がない。オリヴィアの魔力量が多いということは母方の血が濃いのか、あるいは…。父の考えてることが良く分かる。全身から怒りのオーラを発する父と同じ馬車に同乗するのは怖かったが、それを悟られでもしたらそちらの方が面倒だから俯いて表情を見られないようにした。

オリヴィアは父の独り言を聞かなかったふりをして、馬車に乗り込み向かいに座る。父もオリヴィアも、何も喋らない。行きよりも重い空気が馬車の中に広がって行く。早く屋敷に着いて欲しい、と行きと同じことを願った。

離れに戻り、夕食が運ばれて来るまで魔術式入門、初級魔術の使い方、魔術理論と父に頼んで運んでもらった書物を読み込む。そしてリカが部屋にやって来ると疲れた顔をしていた。

「お嬢様が魔力ありだったと何処からか漏れたようで…いつになく荒れております。私も部屋の片付けに駆り出されて…。本邸の使用人達も大変ですね」

「…そう」

「でも、良かったですね魔力があって。お嬢様家庭教師の先生からも優秀だと褒められてましたし、このまま勉強を続けていれば間違いなく魔術師になれますよ!」

リカは自分のことのように喜んでくれる。父はオリヴィアが魔力有りであることを喜ぶどころか怒りの感情を見せた。姉は「不貞の子」であるオリヴィアに魔力があることが許せず、癇癪を起こしている。姉は魔術師になりたいと口にしたことはない。魔力なしだと判明しても落胆することはなかったと聞く。自分に素質がないのにオリヴィアに素質があることを妬んでいるのではなく、ただ自分にないものをオリヴィアが持っていることが許せないのだ。過去、自分が得られなかった母の愛情をオリヴィアが一身に受けていた事実が姉の心に影を落としている。その影が晴れることは来るのだろうか。 

「かっこいいですよね魔術師。私魔術師になれるほど魔力なかったので、憧れます。お嬢様が有名になったら、仕えていたことがあるって自慢して良いですか」

「良いけど、気が早すぎるわよ。なれるかどうかも分からないのに」

「いいえなれます。私のこういう勘、当たるんですよね」

キッパリと断言するリカにオリヴィアは思わず吹き出す。他人のリカが応援してくれて、家族であるはずの姉達からは敵意を向けられる。オリヴィア自身にはどしようもないことだけど、やるせない気持ちは消えない。でも、オリヴィアは前に進むしかない。だから後ろは振り返らないことにした。

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