一大決心して大学院に進学したら、なぜか指導教官の外科医に溺愛されてます
仕事を終え、重い足取りで職員専用の駐車場へ向かうと、街灯の下で人影が二つ揺れていた。
「……御崎」
呼びかけると、白衣を脱いでジャケットを羽織った御崎が、面倒くさそうに振り返った。
「坂上。偶然。今上がり?」
「ああ……」
俺の視線は、自然と彼の隣に立つ人影へと向かった。
小柄で、まだあどけなさの残る女性。大学のロゴが入ったトートバッグを抱えている。
……前に、御崎が「まだ低学年の学生と付き合っている」という噂を医局の連中が面白おかしく話しているのを聞いたことがある。
これがその、噂の彼女なのかもしれない。
「……紹介するよ。彼女の桜」
御崎が、いつもの淡々とした、けれど少しだけ誇らしげなトーンで言った。
「はじめまして。中野桜です。……医学部医学科の3年です」
彼女は、俺の顔を見るなり少し身を竦めて、深々と頭を下げた。
あまりに幼く見える彼女に、俺は少し毒気を抜かれた。
「……心臓血管外科の坂上栄人です」
俺が名乗ると、彼女は「ひっ」と喉を鳴らして御崎の背後に隠れてしまった。
「やめろ。睨むな、ビビってる」
御崎が呆れたように俺を制する。
「いや、睨んでない……」
無意識に眉間に皺が寄っていたのかもしれない。
あるいは、有希とのことで余裕を失っている俺の殺気が、この無垢な学生には刺激が強すぎたのか。
「……でも、御崎らしいな」
俺は、彼の背中に隠れてこちらを伺う彼女を見て、自嘲気味に笑った。
「……小動物みたいな子だなって。お前、猫とか飼うの好きなタイプだろ」
「……あ? 猫?」
御崎が意外そうに眉を上げる。
「拾った猫を自分好みに躾けて、大事に箱に入れて愛でる。……いかにもお前がやりそうなことだ」
「……悪かったな、独占欲が強いみたいで」
御崎はそう言いながらも、背後の彼女の手をさりげなく、けれどしっかりと握った。
その動作には、外野に何を言われようと関係ないという、この男特有の「傲慢なまでの愛」が滲んでいた。