一大決心して大学院に進学したら、なぜか指導教官の外科医に溺愛されてます
私は涙を乱暴に拭い、彼の大きな手を両手で包み込んだ。
冷え切った彼の手を、私の体温で温めるように。
この不器用で、傲慢で、誰よりも誠実な外科医の夢を、私が終わらせてなるものか。
「……辞めないでください。論文も、留学も、諦めないでください」
「おい、だが……現実的に……」
「私も、諦めませんから」
覚悟を決めるのは、男だけじゃない。
私はお腹に手を当てて、彼を真っ直ぐに睨み返した。
かつて、実験室で共に難題に挑んだ時のように。
「全部、取りましょう」
「……え」
「先生の学位も。私のキャリアも。そして、この子の命も。……どれか一つなんて選びません。全部です」
それは、かつて彼が語った「野心」そのものだったかもしれない。
でも、今の私には、それを実現させるための「計算」も「勝算」もある。
「……私たちなら、できます。
……泥臭くても、カッコ悪くても、這いつくばってでも……二人で全部、叶えましょうよ」
彼が呆気に取られたように目を見開く。
それから、ふっと力が抜けたように──今日一番の、晴れやかな顔で笑った。
「……はは。……そうか」
彼は私の額に、ごつりと自分のおでこを押し付けた。
「……強欲だな、お前は」
「先生のパートナーですから」
私たちは夜空の下、無謀で、最高に幸せな「宣戦布告」をした。