一大決心して大学院に進学したら、なぜか指導教官の外科医に溺愛されてます




私は涙を乱暴に拭い、彼の大きな手を両手で包み込んだ。
冷え切った彼の手を、私の体温で温めるように。

この不器用で、傲慢で、誰よりも誠実な外科医の夢を、私が終わらせてなるものか。

「……辞めないでください。論文も、留学も、諦めないでください」

「おい、だが……現実的に……」

「私も、諦めませんから」

覚悟を決めるのは、男だけじゃない。
私はお腹に手を当てて、彼を真っ直ぐに睨み返した。
かつて、実験室で共に難題に挑んだ時のように。

「全部、取りましょう」

「……え」

「先生の学位も。私のキャリアも。そして、この子の命も。……どれか一つなんて選びません。全部です」

それは、かつて彼が語った「野心」そのものだったかもしれない。
でも、今の私には、それを実現させるための「計算」も「勝算」もある。

「……私たちなら、できます。
……泥臭くても、カッコ悪くても、這いつくばってでも……二人で全部、叶えましょうよ」

彼が呆気に取られたように目を見開く。
それから、ふっと力が抜けたように──今日一番の、晴れやかな顔で笑った。

「……はは。……そうか」

彼は私の額に、ごつりと自分のおでこを押し付けた。

「……強欲だな、お前は」


「先生のパートナーですから」


私たちは夜空の下、無謀で、最高に幸せな「宣戦布告」をした。




< 76 / 80 >

この作品をシェア

pagetop