風に舞う桜
な、なに?

おばあさんの瞳は、涙をひそませたように微かに潤んでいて、その視線はまっすぐに、確かに私を捉えていた。

親戚?

記憶を手繰ってみるけれど、思い当たる人は一人もいない。
そもそも、地元から離れたこの土地に親戚がいるなんて聞いたこともないのに。

あれこれ考えていたとき、不意におばあさんが口を開いた。

「もも、ちゃん...?」

「―え?」


その一言に、私は思わず目を見開く。

どうして、この人は私の名前を知っているの。


「あ、あの、」

戸惑いを隠せない声で問いかけようとした、そのとき。

「これを...」

おばあさんは何かを後ろめたそうに、そっと両手で私の手を包み込むようにして、
栞のような細長いものを渡してきた。

頭の中は、もう何度目か分からない「え、なにこれ」の嵐。

受け取ったそれは色あせ、もともとの色すら判別できない。
けれど、上部に付いた小さなリボンのおかげで、古い栞だと分かった。

不安と好奇心の入り混じる気持ちで裏返すと、
そこには、丁寧に押しつぶされた桜の花びらが。


「…さくら?」

その言葉をつぶやいた刹那――

視界が、ぐらり、と音もなく揺れた。
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