秘めやかなる初恋 〜姉の許嫁に捧ぐ淡雪〜

第30章：淡雪色の未来へ

遥斗との再会と別れを経て、雪菜の心には、新たな決意が芽生えていた。遥斗の犠牲と祝福、そして、悠真との確かな絆。多くの困難を乗り越え、傷つきながらも、彼らは互いを選び、共に未来を歩むことを決めた。

悠真は、雪菜を連れて、改めて両親と志穂に、二人の関係を説明した。
父と母は、最初こそ戸惑いを隠せなかったが、悠真と雪菜の真剣な眼差し、そして、彼らがこの一年半の間に経験した苦悩を知り、最終的には二人の関係を認めてくれた。

志穂は、悠真と雪菜の関係を、まだ完全に受け入れられているわけではなかった。しかし、彼女は、悠真の誠実な謝罪と、雪菜の憔悴しきった姿を見て、妹への深い愛情が、怒りを上回ったようだった。

「…もう、勝手にしなさい」
そう言い放った志穂の言葉は、冷たく聞こえたが、その瞳の奥には、妹の幸せを願う姉としての複雑な感情が揺らめいていた。彼女は、時間をかけて、この事実を受け入れていくだろう。

雪菜は、片桐家に戻った。そして、悠真とともに、新しい生活を始める準備を進めていた。
悠真は、自らの責任を果たすべく、志穂が受けた心の傷を癒すため、そして、片桐家との関係を修復するために、多大な努力を払った。彼は、志穂の仕事のサポートを積極的に行い、公私にわたって彼女を支え続けた。その誠実な行動は、志穂の心を少しずつ溶かしていった。

そして、悠真と雪菜は、ささやかながらも、温かい結婚式を挙げた。
参列者は、両家の親族と、ごく親しい友人たちだけ。
遥斗の姿は、そこにはなかった。しかし、雪菜の胸には、遥斗への感謝と、彼の幸せを願う気持ちが、確かに存在していた。

ウェディングドレスに身を包んだ雪菜は、悠真の隣で、穏やかな笑顔を浮かべていた。
彼女の顔には、かつての儚げな悲しみは消え、内側から輝くような、確かな幸福感が満ち溢れている。
悠真は、雪菜の手を優しく握りしめ、二人の未来を誓い合った。

結婚後、雪菜は、悠真のサポートを受けながら、再びデザインの仕事に打ち込むようになった。
彼女の繊細な感性は、悠真のビジネスと融合し、新しい価値を生み出していく。
二人は、仕事のパートナーとしても、そして、人生のパートナーとしても、互いを支え合い、共に成長していくことを誓った。

ある冬の午後、雪菜は悠真の隣に座り、窓の外を眺めていた。
空からは、淡い雪が、ひらひらと舞い落ちてくる。
「淡雪ね…」
雪菜は、そっと呟いた。
「ああ。君のようだ」

悠真は、雪菜の髪を優しく撫で、微笑んだ。
「儚く、美しく。そして、どんな困難にも耐え、強く生きる」
雪菜は、悠真の言葉に、顔を赤らめた。
あの日の淡雪色の初恋は、多くの痛みと、涙をもたらした。

しかし、その困難を乗り越え、彼らは、真実の愛を掴み取ったのだ。
淡雪のように、そっと始まった恋は、嵐を乗り越え、今、温かい光の中で、確かな未来へと続いていく。

彼らの未来は、決して平坦な道のりではないだろう。
志穂との関係。遙斗との別れ。そして、過去の傷跡。
それでも、悠真と雪菜は、互いの手を取り合い、共に歩んでいくことを誓った。

彼らの愛は、淡雪のように儚くも美しい輝きを放ちながら、これからも、強く、深く、降り積もっていくことだろう。

窓の外では、淡雪が降り続き、街を白く染めていた。
それは、彼らの未来を祝福する、温かく、そして、どこまでも優しい雪だった。
淡雪色の未来へ、二人の物語は、今、新たな一歩を踏み出した。