年下研修医の極甘蜜愛
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つい、過去の思い出に浸ってしまった。
仁寿は、スマートフォンをバッグに突っ込んで車をおりると、軽い足取りで職員通用口へ向かった。今日は、医学書を詰めた重たいリュックは必要ない。学生のころに愛用していた、今では滅多に使わない帆布のトートバッグに財布とスマートフォン、念のために聴診器を入れただけの軽荷一つだ。出張用のスーツケースは病院を出る時に取ればいいから、後部座席に乗せたままにしておく。
職員通用口から二階にあがり、正面ではなく研修医室の入り口から医局に入る。二人いる一年上の研修医は休みなのだろうか、研修医室は無人で電気もついていなかった。
電気をつけてバッグを自分の机に置き、机の右端に積まれた郵便物と雑誌を一つずつ確認する。それからコートを脱いで、不要な書類や封書をシュレッダーにかけた。席に座って、充電器に繋がれたままのPHSの電源を入れる。その時、クリーニングされたスクラブを抱えた彩が、研修医室を通りかかった。
「あれ、先生。来てたんですか?」
「お疲れ様、今来たところ。家にいても暇だからさ。体制が悪いんでしょ? 僕に手伝えることがあったら、ここにいるから声をかけて」
とはいえ、医療安全上、今の仁寿が一人でできる医療行為は限られているから、言葉どおり手伝い程度にしかならない。
「今日は患者さんが多くて、すでに外来がまわってないみたいで。救急車の受け入れ要請があったら、ちょっときつい状況です。その時はお声かけしますね」
「うん、少しは役に立てると思うよ」
「助かります」
ポリプロピレンに包まれたスクラブの名前を確認しながら、彩が仁寿の隣の席にそれを置く。
仁寿は更衣室でスクラブに着替えてドクターコートを羽織ると、ポケットに聴診器を押し込み、医局内にある給湯室でコーヒーを淹れた。コーヒーカップを手に彩の席をちらりと覗く。彩は、眉間にしわを寄せてパソコンの画面とにらめっこしていた。