年下研修医の極甘蜜愛
昼が近くなり、窓の外を見ると雪が舞い始めていた。大学を卒業して故郷に帰って来てから、初めての雪かもしれない。
彩は、篠田と仁寿の話が終わるタイミングを見計らってタクシーを手配する。そのとき、病棟での業務を終えた由香とその後ろから松葉杖をついた竹内研修医が医局に入って来た。
「病棟からおりてきたら、ちょうど竹内先生と会って」
由香が、竹内の荷物をテーブルに置いて篠田に会釈する。竹内は、篠田や彩に丁重な挨拶をしたあと由香に礼を言い、代役を務めてくれる仁寿と話し始めた。骨折した足は、順調に回復へ向かっているらしい。
「あ、そっか。彩は今から藤崎先生と出張だね。向こうも雪がふるみたいだから、気をつけて」
スクリーンとノートパソコンを片づける彩に、由香がドクターコートに袖を通しながら言う。
「ありがと。北川先生も防寒対策しっかりね。明日は、日直よろしくお願いします」
「うん、頑張る」
彩は、由香や篠田と談笑しながらスクリーンとノートパソコンを片づけ、上司の平良に業務を引き継いで医局をあとにした。病院の外に出て、朝よりも冷えた外気に思わず身震いする。
タクシーのトランクに荷物を載せていると、キャリーケースを引いた私服姿の仁寿が駆けて来た。
「ごめん、彩さん。竹内と話し込んでたら、遅くなっちゃった」
「まだ慌てなくて大丈夫ですよ。先生、スーツ持って来ました?」
「もちろん」
「じゃあ、行きましょうか」
「うん!」
仁寿と彩はタクシーで駅に行き、そこから在来線と新幹線を乗り継いで目的地へ向かった。病院を出て約三時間半。出張先は、仁寿が六年間学んだ大学のある市だ。二人は、予約してあるビジネスホテルにチェックインすると、夕食を一緒に食べる約束をして二時間ほどそれぞれの部屋で過ごした。
彩は荷物を整理して、研修医会で世話になる病院の医局秘書に連絡を取り、明日の段取りなどを再確認する。相手の医局秘書は、仕事を通じて何度も会ったことのある四つ年上の女性だ。お互いにすっかり顔なじみで、彩は医局秘書の経験豊富な彼女を頼りがいのある先輩として尊敬している。
それが終わると、やっと一息つける時間だ。
結局、仁寿からはまだ、誕生日になにがほしいのか教えてもらえていない。彩は、明日の研修医会の資料などを準備しながら、もしかして迷惑だったかな、とか、聞かずに用意するほうが嬉しかったのかな、などと考えて悶々としていた。
そして、日が沈んで辺りが暗くなったころ。彩のスマートフォンに、仁寿からメッセージが届いた。
『彩さん、花火を見に行こうよ』