年下研修医の極甘蜜愛

 花火そっちのけでシャンパンに目を輝かせる彩は、大好きなおやつをもらって大喜びする猫のよう。シャンパンをそそいだグラスを彩に手渡して、仁寿が「乾杯」とグラスを合わせた。グラスを軽く回して果実の香りをたっぷり味わい、少し口に含む。それだけで、口の中に独特の甘さが広がって涙が出るほどおいしい。


「先生の誕生日なのに、なんだかすみません。プレゼントも用意せずに、かえってわたしのほうがいい思いをしているようで……」

「そんなことないよ。僕は今、人生で一番幸せな誕生日を過ごしているから」


 彩は、左の頬に視線を感じながら、恥ずかしげにシャンパンを飲んだ。映画を鑑賞するように花火を眺め、二人の間にしばらくの沈黙が流れる。日常を、ここが出張先だということすら忘れてしまうような、ゆったりとした時間が過ぎていく。気まずさのない、まるでぬるま湯に浸かったように穏やかな静けさがとても心地いい。


「彩さん」


 仁寿が、空になったシャンパングラスをテーブルに置いて沈黙を破る。ネクタイの結び目を緩める仕草が妙に色っぽくて、彩は目のやり場に困ってしまった。


「唐突な質問をするけど、僕がどうして彩さんを好きなのか知りたい?」


 危うく、高級なシャンパンを喉に引っ掛けそうになる。本当に唐突な質問だ。唐突過ぎる。彩は、とんでもなく恥ずかしい独り言を思い出して赤面した。顔の熱さから、耳まで真っ赤になっているのが想像できる。部屋の明かりが、間接照明の薄い光だけでよかったと心から思う。


「しっかり聞いていたんですね。わたしの独り言」


 彩が声のトーンと肩を落とすと、隣で仁寿が朗らかに笑った。
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