年下研修医の極甘蜜愛
過去にあったいろいろは、彼には関係のない出来事だ。なにがあったのか。どうして恋愛に対して消極的になったのか。話せば親身になって聞いてくれるだろうし、傷を癒すように慰めてくれると思う。でも、彼との間にあの忌まわしい思い出を持ち込みたくない。もう二度と、先輩の顔を思い出したくない。なにより、これからは仁寿さんのことを一番に考えたい。
――だから、お願い。
記憶に焼きついて消えない、新宿のラブホテルの赤い室内灯に先輩の残酷な言葉とピエロみたいな笑顔。それを全部、花火のカラフルで美しい光に、仁寿さんの優しい言葉と笑顔に塗り替えて――。
そしたらわたし、きっと怖がらずに甘えられる。きっと、仁寿さんを好きになる。
目の奥の熱感が強くなって、つぅっとあたたかい水滴が彩の頬をつたった。
「彩さん……、どうしたの?」
仁寿が驚いた顔で彩を見る。そして、スラックスのポケットから取り出したハンカチを慌てて彩の顔に当てた。覚えのある、おしゃれな女子が使っていそうな柔軟剤のいい香りに、思わず笑みがこぼれる。
「嫌だった?」
「違うんです。嬉しくて。仁寿さんみたいに素敵な人から好きだって言ってもらえて、わたしは果報者だなぁと思ったら、胸が幸せでいっぱいになっちゃいました」
「そっか、それならよかった」
仁寿のほっとしたような顔が近づいて、唇が触れそうになる。
今日は、朝から仕事をして長距離を移動した。花火を見にいこうと誘われるまで、ただ夜ご飯を食べにいくだけだと思っていたからシャワーも浴びてない。冬とはいえ汗をかいているし、さすがにこのままでその先をするのは気が引ける。
「あの、仁寿さん」
「うん?」
「お風呂、入りませんか?」
「一緒に?」
「えっと……」
うっかり誘うような言い方になってしまっていたと気づいて「別々に」と言おうとしたが、あとの祭り。仁寿が無邪気な目をきらきらさせていたので、彩は顔を真っ赤にして頷くしかなかった。