年下研修医の極甘蜜愛


 みんなが、ぽかーんとした顔をして仁寿と離れた位置にいる彩を見る。医局が一瞬、しぃ~んと静まり返った。そして……。


「「「「えええええええー?!」」」」


 突如、窓の強化ガラスがガタガタと空振するほどのざわめきが医局内に巻き起こる。


「なんだって?!」

「嘘だろー!」

「エープリルフールにはまだ早いぞ!」


 飛び交っているのは、明らかに祝福よりも驚きの阿鼻叫喚。中には、状況を理解できない人もいる有様。誰にも言わず、職場ではそんな素振りは一切見せなかったから、正しい反応だ。普段の先生たちを知っているから、なんだか面白くて笑いが出てしまう。


「彩さん」


 ざわめきの最中、仁寿が小さく手招きして彩を呼び、彩の横にいた由香が、「頑張れ」と背中を押す。
 彩は仁寿の隣に立ってみんなに深く一礼すると、長年に渡ってお世話になった感謝を述べた。最後にはしっかり、二年の研修を終えてひとり立ちしていく三人の先生と後任の秘書をよろしくお願いしますと頭をさげる。その瞬間、拍手にまぎれて鼻をすする音があちらこちらから聞こえた。

 いい先生たちのそばで、たくさん貴重な体験や経験をさせてもらえた。五年の年月に無駄は一つもない。すごく幸せだった。彩は心からそう思う。
 医局ではもちろん、院内を歩けばすれ違う職員に祝福と驚きの言葉をかけられ、その日はあまり仕事にならないまま慌ただしく過ぎていった。
 後日、急遽セッティングされた彩の送別会で、二人がみんなから根掘り葉掘りの事情聴取を受けたのは言うまでもない。
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