年下研修医の極甘蜜愛


 先生の言葉には、からからに乾いた砂に染みる水のようにじわりと心を潤す不思議な力がある。過去にとらわれたまま怖がってばかりでは、きっとなにも変わらない。先生なら信じても大丈夫なのかも……。

 彩が、仁寿の目を見つめて小さく頷く。同時に、仁寿の顔がくしゃりとほころんだ。


「よし、僕は病棟の採血に行ってくる」

「やる気がみなぎっていますね、先生」

「でしょ? 今朝は彩さんの声で目が覚めたから、明日の昼まで溌溂と頑張れるよ。目覚まし時計の電子音とは大違いだ」

「当直明けは無理せず、ちゃんとお昼で帰ってくださいね」

「うん、分かった」

「シャツは後ろ前だけど素敵ですよ、頑張る研修医」

「え?」


 目を丸くして立ちあがった仁寿が、自分のティーシャツを引っ張って愕然とする。


「ほんとだ。まさか彩さん、起きた時から気づいてたの? 経験って重要だとか真顔で語ったの、全部台無し! 恥ずかしいなぁ、もう」


 朝六時四十分。
 遮光カーテンを開けたリビングに、オレンジ色をした盛秋の朝日が差し込む。重たいリュックサックを背負った仁寿を見送ったあと、彩は二人分の食器を洗って仁寿の服を干した。

 身だしなみ程度の軽いメイクと着替えを済ませて、仁寿のマンションを出る。十分ちょっとの距離を歩いてアパートに戻ると、いつも出勤する時間になっていた。荷物の中から洗濯物だけを取り出して、ささっと干す。そして、検査の予約票と診察券、保険証をファイルに挟むと、彩は急いで職場へ向かった。

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