年下研修医の極甘蜜愛


「はい。所用があって、お休みをいただきました」

「ふぅん。彩さんの机の上に、先生たちの勤務希望の紙を置いといたんだけど、気づいたかな」

「来週中には当直と日直を組んで先生にお渡ししますね」

「いつもごめん」


 悪いとはこれっぽっちも思っていない、ただの社交辞令だと明白な篠田の軽い口調。それでも彩は、顔色一つ変えずに応える。実をいうと、彩は篠田が苦手だ。彼の軽薄さや聞きたくなくても耳に入ってくる噂、年配の先生に対する敬意のないものの言い方。言葉遣いや口調の荒さが高圧的に感じるし、納得できないと相手をとことん問い詰めて論破してくるところも面倒で扱いづらい。

 しかし、彼は育った境遇と経験から、確固たる信念をもって医師の仕事と向き合っている。仕事にストイックで、一切の妥協を許さない。それを間近で見ているから、彩は私情と仕事を切り離して、篠田のいいところに目を向けるよう心がけている。それは篠田に限らず、他の医師に対しても同じだ。


「先生が忙しいのは承知しているので、気になさらないでください。でも、わたしが当直と日直を組んでいることは、絶対に内緒ですよ。事務が勤務を決めていると知ったら、先生たちの不平不満が爆発して収拾つかなくなっちゃいますから」

「分かってるよ。彩さんには世話になってばかりだな。そうだ、御礼に飯でもおごろうか」

「お気持ちだけいただきます」

「俺と二人で飯食うの、嫌なわけ?」


 篠田が、片方の口角をあげて笑う。

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