年下研修医の極甘蜜愛

 彩が勤務する病院は、いわゆる市中の中小規模の病院だ。標榜している診療科は、外科と内科、それから小児科と麻酔科。病床数は一二〇床ほどで、常勤医師は三十人に満たない。一定の基準をクリアして臨床研修施設の認定を受けているのだが、研修医は研修プログラムに沿って、よその病院で必修の診療科をローテートする必要がある。

 彩の病院に在籍する一年目の初期臨床研修医三名は、十一月一日からそれぞれ別の病院での研修がスタートしている。仁寿は、一カ月の精神科専門病院での精神科研修を終えて、市内の総合病院のER(救急)で研修を始めたばかり。

 そういう事情で、彩と仁寿が職場で顔を合わせる機会はなくなってしまった。プライベートでも、合鍵は使わずじまいだったから一度も会っていない。

 彩は仁寿との、いわゆる同棲に踏み切れずにいる。

 過去を引きずっていてもなにも変わらないと頭では分かっていても、気持ちがまだ過去と決別できなくて、すんなり前を向けない。それに、軽蔑する理由がないと言ってくれたけれど、一点の曇りなく生きてきたであろう彼に対して引け目を感じてしまう。

 隣の席の若い男女が、空っぽになったコーヒーカップと笑い声を残して席を立った。


 ――彩さんが、僕とつき合うにあたって障害だと思っているもの。


 仁寿の言葉も胸に引っかかっている。仁寿の実家は、もと士席の藩医という由緒ある家柄だ。細かな話までは定かではないが、廃藩置県以降も代々医師を務めている家系で、両親とも医師だと聞いた覚えがある。過去や気持ち云々の前に、田舎の平凡な一般家庭で育った自分とは、なにもかもが違い過ぎる。軽率に同棲なんかしたら、彼の実家にも迷惑だろう。


 ――考え方が古いって、笑われるかな。


 でも、つき合うのと同棲するのとでは意味が違う、と彩は思っている。年齢を考えても、きっと周りはそういう目で見るはずだし……。


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