黄金のオルカ

第九話 潮目



 土曜日の早朝、リゾートホテルの裏手で迎えを待っていた客は、ひとりだけだった。
 シースルーの丈の短いワンピース。薄手の白いジャケットを羽織った、黒髪の女性。
 その客の顔に、海結は見覚えがあった。
 警察関係者の夫と新婚旅行中だった、あの女性だ。
 昨日の夕方、ホテルから届いたホエールウォッチングの予約を知らせるメール。二度目の参加、と付記されていた名前は、○○亜紗といった。
 亜紗のほうも海結に気づき、軽く会釈をする。バッグを持つ手の指輪が、朝の陽を浴びてきらりと光る。
 顔を上げた時、一瞬だけ鋭い視線を投げてきたのは、気のせいだろうか。
 今日のトムは、亜紗を見た瞬間から、なぜか一言も話さない。無言のまま、硬い動きで亜紗を軽バンの後部座席に案内する。
 漁港へと走り出す。
 道中、海結は自分の背中に向けられる視線の強さが気になって仕方ない。
 助手席の海結からは、亜紗の様子はよく見えない。理由がわからない。海結は首をかしげた。
 亜紗が夫とホエールウォッチングに参加した日の夜のことを思い出す。
 深夜、灯りの落ちたホテルのロビー。亜紗はひとりで帰ってきた。自販機コーナーにいた海結と目を合わせることを避けるように、急いでエレベーターに乗り込んでいった。足がもつれそうになったことも覚えている。
 時折、運転席のトムが、ちら、ちらと海結のほうを見る。海結がトムに向くと、トムは逆に前を向いてしまう。
 今日は、何かが変だ。
 海沿いの国道をトンネルの手前で左折し、いつもの漁港に入る。
 送迎に出る前に、フィッシングボートの出港準備は済んでいる。時間は出港予定時刻より少し早いが、客は亜紗だけだ。
「出港しよう」
 トムはボートの舫いを解いた。

 晴天だが、西からの風がやや強く、波も高めだった。
 風に逆らってボートは沖へ、沖へと進む。船首が蹴りのけた波が、飛沫となってフロントウィンドウを濡らし、トムが時々ワイパーを駆動する。
 キャビンの中は、床下からのディーゼルエンジンの鈍い音だけが響く。
 ナビゲーターシートに座る海結がそっと振り返ると、亜紗は頬杖をつき、窓の外をじっと眺めていた。
 キャプテンシートのトムも、終始無言だ。
 言葉を発するのがためらわれるような、重々しい沈黙がキャビン内を支配していた。
 海結がその息苦しさに耐えているうちに、ボートは第一のウォッチングポイントに到着する。
 風上に船首を立てて停船し、トムがGPSオートポジションのスイッチを入れた。
 普段は使わないことが多いが、今日は風がある。ボートが流されて位置が変わらないように、と考えたのだろう。
 キャビンの外に出て、シャチを探し始めるところだが、亜紗はシートから立ち上がろうとしない。
「着きましたけど……」
 声をかけたが、亜紗は海結を見ようともせず、ずっと窓の外に顔を向けたままだ。ガラスに映る亜紗の表情は、固く険しい。
 もう一度声をかけようとした海結を制し、トムが前に出る。
「本当にシャチなんかいるんですか」
 亜紗は、トムを一瞥して、ぼそりと不機嫌な声で言う。
「いる」
「いるって言うなら、見せてもらえませんか、今日のうちに」
 ようやく立ち上がる亜紗。
 キャビンのドアから後部デッキに出る際、トムは首から下げた双眼鏡を外し、海結に渡した。
「これで、前のほうを見ていて欲しい」
「でも……」
「大丈夫だ」
 トムと亜紗の間に、何か穏やかならぬものを感じる。
 自分がいると余計にややこしくなりそうだと思い、海結はトムに言われたとおり、前部デッキに移動した。
 ボートの船首側は揺れが大きい。今日は上下だけでなく、左右にも揺さぶられる。ステンレスの手すりをしっかりとつかんで、舳先に立つ。
 双眼鏡の焦点の合わせ方は、すでにトムから教わっている。
 海結は、海面を遠目に見張り、気になる場所は双眼鏡で確認する。
 今のところ、目印となる噴気は見つからない。双眼鏡を一度下ろし、短くため息をついた。
 正直、今の海結は、後部デッキのトムと亜紗が気になって、シャチどころではない。
 二人が何か話をしている気配はあるのだが、風上に立っているせいで海結のところまでは声が届かないのだ。といって、後部デッキに近づく気も起きない。
「どうしてなの!?」
 突然、もやもやした気持ちのまま海を見ていた海結の耳に、亜紗の大声が届く。
 驚いて後部デッキに向かおうとしたが、次に聞こえてきた言葉が、海結の足を止めた。
「誠さんに抱かれてる時も、あの夜のことが頭から離れなくて、どうしようもないのよ! あなたのことを体が覚えてて、忘れられないのに、いったいどうしたらいいのよ!?」
 その言葉の半分も理解できないうちに、海結の頭は真っ白になった。膝が抜けそうになり、とっさに手すりをつかみ直す。
「新婚旅行中だった私を抱いて、私の体をこんなふうにしておいて、もうしないって、いったいどうしてなの!?」
「あの夜、あなたはひとりで漁港までやってきた、自ら望んで。僕が誘ったわけじゃない」
「私が悪いって言うの!?」
「僕は、あなたの望みに応えただけだ。良いも悪いもないだろう。違うか?」
 亜紗は、わざと私に聞こえるよう大声で言っている、海結はそう感じた。
 それは、海結に、その夜のことを暴露し、トムを告発するためだ。同時に、海結へのあてつけでもある。
 その怒りに対峙するトムは、落ち着いているようだが、亜紗に引きずられて次第に声が大きくなっている。
「一回抱けば、もう興味はないってこと!?」
「そういうことじゃない」
「そっちのひと、あの日にいたひとよね?」
「そうだ」
「もう抱く女に不便してないってこと?」
「言ってることが滅茶苦茶だ。嘘を並べて八つ当たりするのはやめてもらおう」
「八つ当たりじゃないわ。元々はあなたの嘘のせいなんだから」
「どういう意味だ?」
「おかしな話だと思ってたのよ。こんな温かい沖縄の海にシャチなんているはずない。いないものをいるって嘘をついて、シャチを客寄せパンダにして、女をおびき寄せて食い物にしてたんだわ。一緒にいるそのひとも、そのひとりなんでしょう? 私は一度きりで飽きて、そのひとはキープした。いつでも抱ける都合のいい女として、ね」
 亜紗の言葉が、海結の胸に冷たい刃となって突き刺さった。
 私は、餌に釣られ、トムが食い物にしてきた女達のひとりに過ぎないのか。トムにとって私は、一夜限りでなく、好きな時に抱けるように家で飼っている女なのか。
 そうだとしたら。
 息がつまる。胸が苦しい。そんなはずはない、と叫びたいのに、言葉が喉の奥でつかえて出てこない。
「それは違う!!」
 洋上でも鼓膜に響くような、トムの大声。まるで、海結の代わりに叫んでいるように思えた。
「僕を何と言おうがかまわないが、海結を悪く言うのはよせ。何度言われても、あなたの望みに応じるつもりはない。ナイトクルーズはもうやらないと決めた。金輪際、誰の誘いにも乗らない」
「なぜなの、どうして……」
「海結が、僕を待っていてくれたからだ」
「そのひとのことなのね、海結って」
「そうだ」
 海結は、聞こえてくる話の内容を、すぐには飲み込めなかった。
 自分ひとりを選ぶとトムが言っているのに、なぜか、その海結は私のことではない、とブレーキをかけるもうひとりの自分がいる。
 混乱し、頭がぐるぐると回っていた。
 目の前に広がる海に、遠く噴気が上がっていることに気づかないくらいだった。
 海結の瞳に映る黒い影。その正体に気づく頃には、それはボートにかなり接近していた。向きを変えた時に、背中のサドルパッチまではっきり視認できる。
 シャチだ。
「いる! シャチがいる! トム!」
 海結は振り返り、後部デッキに大声で知らせる。咄嗟に出た言葉。トムを呼び捨てにしていた。
 トムが前部デッキに駆け寄る。シャチの姿を見るなり、
「エリザベス、群れのボスだ」
と静かに告げた。
 沖縄に来て、初めて見るシャチ。
 やっと会えた、と胸がいっぱいになる。言葉にできないまま、ただひたすらエリザベスと呼ばれるシャチの姿を目で追う。
 エリザベスは、ボートの周囲を悠々と泳ぐ。こちらの様子をうかがっているようにも見える。
 メスとはいえ、間近で見る成獣の巨体は、圧倒されるような迫力がある。
 トムは、キャビン内から持ってきたカメラを構え、ボートの右舷を泳ぐエリザベスを撮影する。
「潜るぞ。左舷だ」
 海結は急いで左舷に移り、ブルワークにつかまって身を乗り出す。
 後部デッキできょろきょろと海面を見回していた亜紗も、海結の姿を認めると、同じように身を乗り出した。
 潮を吹いてから、エリザベスは潜水した。
 前部デッキにいる海結とトムと、後部デッキの亜紗の間を横切る。スクリューのように身をよじり、白い腹を上に見せながら、船底をゆっくりと通過してゆく。
 一瞬、海結は水中のエリザベスと目が合った。
 大きな体に比べればとても小さい目。シャチの瞳は普通、体表の黒に埋もれるような色をしているはずなのに、エリザベスは違った。色素が薄く、トムと似た琥珀色を帯びていた。
 その瞳に捉えられた時、海結は硬直し、呼吸さえできなかった。
 心臓にまで震えが走る。ひたすらに無機質で、人の営みから超然として存在する、海と野生そのものの目だ。
 船底を通過し終えると、エリザベスは次第にボートから遠ざかってゆく。
 やがて、噴気をひとつ残し、遠く海原を南西のほうへと姿を消した。
 気づくと、亜紗はエリザベスが去った方向に顔を向け、まばたきもせず、放心したように口を開けていた。
 亜紗は、しばらくの間、ブルワークにしがみついた姿勢のままで、動こうとしなかった。
 トムが後部デッキの亜紗に歩み寄る。海結も後ろに従う。
 亜紗の背中に声をかけることもなく、トムは黙っている。亜紗の言葉を待っているように思えた。
「……いたのね、本当に」
 海風に髪を預け、亜紗はぽつりと言った。
「いったい、何をやってるのかしら、私は……」
 そう呟いて、ふらふらと立ち上がった亜紗。トムも海結の顔も見ることなく、キャビンの中へ消える。
 トムは、亜紗がキャビンに戻ったのを見届けてから、再び双眼鏡を目に当て、付近の海を監視し始めた。
 緊張の糸が、少し解ける。海結は、トムに話しかけた。
「やっとシャチに会えました。けど、こんな時に現れなくても……」
 軽い皮肉を混ぜたつもりだった。トムは双眼鏡を下ろす。
「僕を叱りに来たんだ」



 亜紗を送る途中、海結もトムも、後部座席の亜紗も、無言のままだった。
 リゾートホテルで亜紗を降ろした後も、海結はただ下を向き、黙っていた。
 ハンドルを握るトムは、すぐ隣だ。聞きたいことも確かめたいこともあるが、海結は何も言い出せない。
 トムも口を開かない。海結のほうを向くこともなく、その視線はフロントガラスに終始固定されていた。
 家に着く。
 トムが玄関ドアを開け、ライフジャケットを脱ぎ、黒いキャップと一緒に脇のフックにかける。
 背中から見るトムは、逆三角形の体型がいっそう強調されて見えた。
 今は、薄暗がりの中、少し首を落としている。多分、先に口を開くべきか、何を話すべきか、迷っている。そう思った。
 海結も同じだった。
 トムはひとりものだが、海結は陸斗の妻だ。トムに真偽を確かめること自体が、そのまま自分へ跳ね返ってくることはわかっている。
 しかし、何も確かめず、真実から目を背けた宙ぶらりんの状態のまま、この家でトムと暮らし続けることはできなかった。
「トム」
 続いて靴を脱いだ海結は、意を決し、その背中に声を投げた。
 立ち止まるトム。返事はない。
「あのひとが言ってたのは、本当なの?」
「本当だ」
 トムは海結に背を向けたまま答える。
「彼女が言ったとおりだ。あの夜、ひとりでやってきた彼女を、ボートの中で抱いた」
 その抑揚のない声には、言い訳もごまかしもなく、ただ事実だけを淡々と告げる響きがあった。
 深夜にホテルに戻ってきた亜紗の姿が、海結の心に黒い塊となって落ちた。
「彼女は、結婚したばかりの旦那さんと新婚旅行中だった。それを知ってたはずなのに、どうして、そんな、他の人の幸せを踏みにじるようなことができるの!?」
 そのまま、ブーメランとして戻ってきて、自分の心をえぐる問いだ。その痛み耐えて、今は真実を確かめるしかない。
 トムの返事を待つ。心臓が強く押し出す血流のせいで、少しこめかみが痛い。
「彼女がそう望んだからだ。彼女はひとりでやってきて、僕を求めた。僕はそれに応えた。それだけだ。彼女の幸せを壊すつもりも、奪うつもりもない」
「それが本当だとしても、断ることだってできたはずなのに、何で!?」
「結婚してても、自立した意思はあるはずだ。彼女が、セックスの相手として僕を選んだ。選ばれた僕に断る理由は見つからなかった」
「そ、そんなことって……」
「だが、僕のほうも、彼女がどんな乱れた姿を見せてくれるか、興味を持った。だから応じた」
 トムの赤裸々過ぎる告白。海結は、いつの間にか拳を握りしめていた。
「彼女だけじゃなくて、他の女の人にも同じことをしてきたのね!」
「そうだ」
 ため息をつくトム。
 その背の向こうに、トムが抱いてきた女性達の影が揺らめいている気がした。
 その中に、二人の女性のぼんやりとした姿もあった。それが、海結の記憶の中の、ある母娘の像とカチリと連結された瞬間、海結は両手を口に当てた。
「!……まさか、あのお母さんと娘さんも……」
「あれは、騙されたんだ」
「騙された?」
「ああ。仕組まれたことだったんだ。撮影スタッフを先に帰らせたのも、僕に送らせるためだ。海結が降りた後、突然行き先を貸別荘に変えた。あの母娘は、最初から僕が目当てだった」
 海結は気づいた。
 確かに、美玲と美琴の行動には、腑に落ちない点があった。トムの言うとおりだとすれば、すべての事柄が、ジグソーパズルのようにぴったりと合わさる。
 美玲はしきりに、美琴に本物を経験させたい、と言っていた。偶然見つけた本物がトムで、海結をも欺いた上で、一晩借りる、という行動に出たのだ。
 そういうことだったのか。
 美玲が口紅をくれたことも、単なる好意ではない。トムの借り賃と口封じだ。
 母娘のやり口には怒りを覚えるが、トムの行動には納得できない。
「騙されたとわかったら、すぐ帰ってくればいいのに。何でそうしなかったの?」
「母親から、娘の初めてになってくれと頼まれた。娘のほうからは、ママも一緒に、とせがまれた」
「だから、二人とも抱いたって言うの?」
「そうだ」
 トムの赤銅色の肌に、美玲と美琴の白い肌が絡みつく様が、脳裏に浮かぶ。
 誘惑と情事の熱が、炎となって海結の胸を焼いた。
「あの娘、まだ学校に通ってるのよ。カレシだっているかもしれないのに!」
「確かに初めてだったが、十分に抱ける体だった」
「女性のほうから誘われれば、問題ないとでも思ってるの!?」
「誘われたってことは、選ばれた、ということだ。セックスの相手として選ばれることは、男にとっては光栄なことだ。男なんだから、それに応えることは当然だろう」
 トムの表情は真剣だった。至極真面目に言っている。
 女性をメス、男をオス、セックスを交尾と置き換えれば、まんま野生動物の営みだ。
 海結は絶句した。
 野獣だ。そう思った。
 メスに選ばれることが何より大事で、オスはそれに本能で応える。つがいの有無は関係ない。生殖可能で、発情期を迎えていれば、年齢も無関係だ。
 そこに善も悪もなく、奪うでも壊すでもない。人間社会の常識は通用せず、野生動物の生殖原理だけが存在する。
 海結はトムの家を、人間の暮らしにふさわしいものに変えたつもりだった。しかし、トムの内なる野生を飼いならすことはできなかったのか。
 何の意味もなかった、ただのひとりよがりだった、という虚無感が海結を支配した。
「私も、あのひとや母娘と同じだった、ってことね……」
「海結は違う」
 即座に否定し、トムはようやく海結のほうを向いた。
 その琥珀色の瞳が、まっすぐに海結だけを映す。まゆを少し上げ、困ったような、照れたような、どっちともつかない表情。
 初めて見る表情だった。訳もなく、海結の胸が高鳴る。
「海結だけだ。僕が自分から求めたのは」
 呟くような、いつもより少し上ずった声。
 よりにもよって、女がらみの暴露話の最後に、こんな告白をしてくるとは。
 トムはこの場を雰囲気で押し流し、私をごまかそうとしているんだと、もうひとりの自分が警告を出す。
 肯定と否定が頭の中でぐるぐる回り、沸騰している海結に、たたみかけるようにトムの声がかぶさってくる。
「ずっとここにいて欲しい」
 体が先に動いた。
 沸騰する頭を置き去りにして、海結の体はなぜかキッチンに向かっている。
 やかんに水を入れ、火にかける。コーヒーカップを用意して、インスタントコーヒーをスプーンで入れた。途中、スプーンがカップに触れ、カチカチと音が鳴った。
 トムに手首をつかまれる。海結が見上げた先にトムの顔がある。
「今はいい」
 眉間にしわを寄せ、じっと海結を見下ろすトム。海結の手首を解放した手で、コンロの火を消す。
「なぜ逃げるんだ」
「逃げてなんか……」
「あの日の夜、海結は深夜まで僕を待っていてくれただろう。海結となら、ここで人間らしく暮らしてゆけると思ったんだ。僕は、海結だけがいてくれればいい。他の女はもういらない。ずっと一緒にいて欲しい。答えてくれ」
 今、最も聞かれたくないことを聞かれ、答えを求められている。
「あ、あの、さっき撮った写真、整理しないと」
 両腕が、左右からトムにつかまれ、強い力で向き合わされる。
 混乱した海結は、頭に浮かんだ単語を、とりあえず並べてみた。
「トムのスケベ、女たらし、ヤリ〇ン、ケダモ……」
 真正面からのぞき込んでくるトムの強い視線にさらされた瞬間、海結はもう、言葉を続けることさえできなかった。
 トムの目は、捕らえた獲物を逃さんとする肉食獣そのものだった。

 ベッドの横に、海結がさっきまで身に着けていたTシャツもショートパンツも、ブラもショーツも、一緒くたに放り投げられている。その中に、トムの黒い海パンも混ざっている。
「あ……はあ……あっ……もう、やめて……」
 室内は薄暗いが、午後の光は窓から差し込んでいる。
 海結もトムも、まだシャワーすら浴びていない。部屋の中の熱気と、互いの体から立ちのぼる汗の匂い。肌にシーツがべっとり張りついてくる。
 海結の、開いた両脚の間に体を収めたトム。
 乳房に顔を寄せ、唇に乳首を含む。強く吸われた負圧で充血した乳首の周囲を、舌が優しくなぞる。じんっ、じんっ、と体中に感覚の波が伝わってゆく。
 トムが大きく口を開け、乳房に吸いつく。汗と唾液で濡れた乳房の表面を、歯が滑る。
 不意に、乳首を甘噛みされた。
「はっ……あ……」
 抑えようとしていた声が漏れる。
 トムの左手が、もう片方の乳房を揉みほぐしている。親指と人差し指が、柔らかい肉のかたまりに食い込み、乳首を外へ押し出すように動く。
 海結の脇の下から腰へと、トムの右手が、肌をなでさすりながら移動し、下腹部に辿り着く。
 ぴくっ、と跳ねる海結の体に構わず、恥丘を豊富な陰毛ごと指で刺激する。もどかしさに耐えていると、今度は秘裂の左右の丘に触れてきた。
「ああっ……」
 指が丘を左右に開くと、中から何かがあふれ出る感触がある。
 トムが、海結に密着させていた体を起こした。海結も目を開け、トムの顔を見上げる。じっと、海結を見る目がある。
 どこか、海結を観察しているように思えた。海結はたまらず、両手で顔を隠す。
 秘裂から膣の中へと、トムの二本の指が侵入してくる。
「んあっ……やめっ……ああっ」
 ぬるりと入り込んできた指が、膣の襞をなぞる。ざらついた指の表皮の感触とともに、電流が走って、体の内部から指先まで波紋のように広がる。
 海結の意思から、次第に体が切り離されてゆく。
 腰が、指の動きに呼応して、ベッドの上に円を描くように動く。上半身がよじるように動くたび、乳房がワンテンポ遅れて追随した。
「やあっ……だ、ダメっ……あ……ん……」
 はっ、はっ、という浅い呼吸を繰り返しながら、くちゅ、くちゅ、という耳につく音に染まってゆく。
 膣がゆるんだところで、指が抜かれた。トムの手が、海結の両膝をがっちり固定すると、膣の入口に熱いオスがあてがわれた。
 オスの頭が、丘を左右に押しのけ、唇を強引に割って中に入ってくる。
「あっ……やっ……ぐっ……ううっ」
 トムは、腰の筋力だけでオスを押し込んでくる。頭が入り切ったところでいったん止め、さらに力を入れて幹の根元まで中に沈めてきた。
 何度トムに抱かれても、挿入時の圧迫感と、体の内筋が無理矢理拡張される感覚は残る。しかし、それも一瞬のことで、すぐに溶けてしまいそうな熱さに塗り替えられてしまう。
 海結の顔の左右に、トムの両手がある。腕を突っ張り、海結の顔を見下ろしている。
 今日は、いつもと違う。海結の反応を観察するだけではない。何かを探り出そうとしている、そんな目だ。
 怖い。
 思わず息を引っ込めた時、トムの唇から言葉が聞こえた。
「海結は、なぜここに来たんだ?」
 突然放り込まれた問い。海結はその意味がわからない。答えられず、黙ってトムの顔を見上げていると、中のオスがゆっくりと動き始めた。
「あっ……あんっ……あ……あ……」
「指輪、してただろう?」
 オスの動きと呼応するように、ゆっくりと海結の上に落ちてくる問い。
「……んっ……あ……あっ……」
「自分の群れを放って、どうして、ひとりでここまで来たんだ?」
「……言え、ない……あ……ん……」
 トムの動きが、ぴたりと止まる。
 体の奥底にある熱が、高まることもなく、中途半端なところで留め置かれた。
 膣内のオスが、びくっ、びくっ、と跳ねるたび、わずかな熱を上に重ねてゆく。
 海結はトムの肩に手をそえ、その目を見つめた。
「ねえ……」
「教えてくれ」
「言えない……から」
 もどかしさに耐えかねた腰が勝手に動こうとするが、トムの手が強力に抑え込み、微動だに許さない。
 最後の砦だ、と海結は思った。ここを破られたら、私は丸裸だ。自分が自分でなくなくってしまう気がする。
 海結は首を横に振り、唇をぎゅっ、と噛んだ。
「話さないと、ずっとこのままだ」
「いやっ……いやあ……ん……」
 腰が動かせない代わりに、海結の膣は吸うようにオスを締めつける。くびれの形や、幹を這う血管の脈動まで、はっきりとわかる。
 体のほうは求めていると知ってしまう。
「……逃げたかった、から」
 はっ、と気づいた時、海結は問いに対する答えを口にしていた。
 口惜しいと思う間もなく、トムが再び腰を動かし始める。
「ああっ! …あんっ…あっ…あっ…」
 海結の体は、待ち望んでいた快楽に、大きく見悶えた。
 トムのオスは、小さく、小さく、時に大きく、一定のリズムで奥を突いてくる。
「何から、逃げたかった?」
「ふあっ…り、陸斗…あっ…私…の…旦那、さん…ああっ……」
「何が、あった?」
「…あ、ああっ…向き合って…くれなかった…あっ…」
「そうだったのか」
「…ちゃんと、あっ…愛して…くれな、かった…の…ああっ…」
 ぬちゅ、ぬちゅ、と湿った音を立てながら、膣の中を往復するトムのオス。海結の全身は快楽に染まり切り、宙に浮いているような感覚に捕らわれた。
 海結を守る最後の防壁が、迫りくる波に押し流されようとしていた。
「もうっ…ダメっ…来そう、なの、あっ、ああっ、あうっ」
 トムが腰の動きをダイナミックに変え、奥を突き崩すような衝撃が海結を襲う。
 一気に大波が押し寄せ、海結を丸ごと飲み込んでゆく。熱いほとばしりを中に感じながら、海結は大きくのけぞり、達した。
 しかし、トムの尋問は、まだ終わらなかった。
 海結が達した後も、トムのオスは萎えることなく、膣の収縮にも負けず、海結を貫いたまま居座り続ける。
 トムは、海結のぴくっ、ぴくっ、という痙攣と、早い呼吸が落ち着くのを待って、腰の動きを再開させた。
「あっ、ああっ、私、まだ、ダメっ、ああっ」
 最初から動きも大きく、奥を突く力も強い。ぐずぐずに溶けた膣の襞を、容赦なくかき混ぜてくる。
「どうして、指輪を、外した?」
 トムは、海結の片方の太ももを、肩に抱え上げた。
「群れに、帰るのか、群れを、捨てて、ここに、いるのか、どっち、なんだ?」
「わ、わから、ない、あっ、あっ、わからないのっ、あああっ」
 海結は、トムの激しい腰の動きで、一気に追いつめられた。
「ああっ、あっ、またっ、ああっ、あああっー!!」
 トムがオスを引き抜くと、膣孔から愛液が噴き出してシーツに散った。
 海結は、大きくのけぞって硬直した後、がくっ、と崩れ落ちる。
 はあ、はあ、と肩で息をする。体の震えを止めることができない。
 海結の両膝を手で左右に開かせ、再び膣にオスを挑ませるトム。
「やだっ! もう、いやっ…あっ、ああっ!」
 膣の痙攣をものともせず、オスがぐっ、と押し入ってくる。
 繰り返し襲ってきた快楽の波のせいで、海結の意識は朦朧としている。形を失った意識の中、自分が壊されてしまうのではないか、という恐怖だけが、はっきりとした形を保っていた。
 まだ息の整わない海結をおもんばかってか、トムは激しく動くことはなかった。腰を押しつけた姿勢のまま、ゆるゆると上下左右に振っている。
 少しだけ安心する。
 海結の背に、トムの腕が回る。しっかりと抱きしめられる。海結もトムの背にしがみつく。
 オスの頭が、子宮の入口を押して、刺激を送り込んでくる。
「はあ……ん……あ……あん……」
 さっきまでの激しい責めとうって変わり、今度は、体の奥から熱さで溶解してしまいそうな快感がある。
 体中の筋肉が弛緩するのを感じた時、
「海結」
と、耳元にトムの声が聞こえ、ぞくりと緊張が走る。
「海結は、自分で自分を慰めていただろう?」
 その言葉が、快楽に浸り切っていた海結の意識を、瞬間的に呼び戻す。
 気づかれていたんだと思うと、どこかに隠れてしまいたくなる。
「誰を思ってた?」
 体と頭がとろけきっていても、まだ一本、羞恥の糸が残っている。
 海結は首を横に振る。トムが動きを少し早めた。
「ほら、話せ」
「はあ…言うから…動かさない…で…」
 羞恥の糸は、ぷっつりと切れた。
「…した…トムのこと…考えて…あ…」
 海結を突く動きが止まる。トムは少し上半身を起こした。
「俺を見ろ」
 トムの目を見る。
 私は、この獰猛な獣に、牙を突き立てられ、皮を引き裂かれて貪り食われようとしている。
 海結の本能が、そう教えた。
 恐ろしいのに、自分が原型を留めない肉片にされてしまうのに、体がそれを待ち望んでいるかのように疼く。
 トムに両脚を抱え上げられる。海結の背を丸め、腰を上に向ける姿勢にしてから、トムは体重を乗せてきた。
 上から海結を串刺しにして、激しく腰を打ちつけてくる。
「今、自分が何をしているか、言うんだ」
「あっ、トムに、抱かれてっ、るっ、ああっ、あっ」
「群れの、男、じゃなくて、俺を、受け入れてるんだ」
「ああっ、陸斗を、あっ、裏切って、してるのっ、トムとっ、ああっ」
「海結は誰のものだ、言え!」
 膣を突くオスの動きが、さらに速さと強さを増す。オスの頭が連続して子宮を叩く衝撃が、神経の暴走となって頭まで響く。
 オスが、はち切れんばかりに容積を増す。
「ト、トムの、ものっ、はうっ、だから、あっ、出してっ、もうっ!」
「ずっとここにいろ、海結!」
 奥に、びくっ、びくっ、という脈動とともに、煮えたぎったものが注ぎ込まれた。
「あっ、熱いっ、ふあ…あっ、あああっー!!」
 トムの放ったものが、津波となって海結を襲う。海結の足は地面から離れ、そのまま海中深くへと引きずりこまれてゆく。
 海結は、白濁した海に沈みながら、
「俺のものだ……」
という声を聞いた。

 気づいた時、トムの腕の中にすっぽりと包まれていた。
 トムの右腕を枕にしながら、厚い胸板に頬を寄せる。自分の腰をなでる大きな手があった。
 私はメスだ、と思った。
 トムが野生の原理に従うオスなら、自分は、オスのアピールに体を許したメス。人の倫理に背いてつがいのオスを裏切ったメスだ。
 目頭と目尻から、つーっ、と涙が落ちた。
「海結は、泣きながら笑えるのか」
 トムの声が直接響いてくる。海結は、自分の頬が緩んでいることに気づいた。
 どうしてなのか、自分自身にもわからない。
 今は、そんなことを考えたくはない。ただ、ここにあるトムの温度と匂いだけを感じ、その中に浸かり切っていたかった。
 海結は、今ここにいる、海結とトム以外のものすべてを忘れるために、そっと目を閉じた。



 朝、二ヶ月ぶりに生理があった。
 元々、海結は生理のサイクルが不順だ。
 陸斗とのセックスに常にゴムを使っていたのも、サイクルが読めない、ということが理由のひとつだった。
 生理が来たら来たで、その数日前から生理痛、特に頭痛がひどくなる。寝込むことも多く、東京勤めの頃は鎮痛剤を常に持ち歩いていた。
 初潮以来、大人になっても一向に改善しない、海結の体質だった。海結の母もそうだった、と聞く。
 しかし今回は、少し頭が重くなるだけで済み、鎮痛剤を飲む必要はまったくなかった。
 最近、体の調子も、これまで経験したことがないくらい良い。とにかく、体が軽いし、よく動く。
 不思議なことだが、環境が大きく変わったためだろうか。
 トムは、テーブルで海結が淹れたコーヒーを飲みながら、資料を読み込んでいる。
 ナプキンをトイレットペーパーで包み、ビニール袋に入れてから、トムに気づかれぬよう、そっと村指定のゴミ袋に捨てた。
 これまで、何度もトムに抱かれてきた。
 トムが避妊することは一切ない。いつも妊娠の不安と隣り合わせだ。
 生理が来て、ほっ、とひと安心だが、妊娠の不安が去ったわけではない。
 現に、トムとひとつ屋根の下で暮らし、毎晩のように抱かれているのだ。

 テーブルに向かい合って座った海結の前に、トムの穏やかな笑顔がある。
「ねえ、トム」
「どうした?」
 トムが顔を上げる。
「シャチって、どうやってつがいになるの? 子育てはどうしてるの?」
 頬杖をつきながら質問すると、トムはコーヒーをひと口飲んでから答えた。
「シャチの場合、つがいのような固定的な関係はない。メスもオスも、よその群れに交配の相手を見つける。メスは種を宿して自分の群れに帰る。オスはメスに種を授けて帰る。だから、群れの中に父親というものはいないんだ」
「そうなんだ」
「そうやって、近親交配を避け、血を濁らせないようにしている。野生の知恵、だな」
「トムは、シャチのオスと同じことをしてる気がする」
「え?」
「だって、今日はこっちの群れのメス、明日はあっちの群れのメスって感じで、決まったメスとはつがいにならないんでしょ?」
「……」
 トムは困った顔をした。これ以上いじめるのも気が引けたので、質問の内容を変える。
「じゃあ、生まれた子供は、お父さんを知らないってことなの?」
「そうだ。生まれた子は、母親と群れ全体で育てる。もっとも、最近は、孤立した群れの中で近親交配を繰り返し、メスと交尾するために子殺しまで行われる例もあると聞くが……」
「そんなことをしてたら、いずれ全滅するってわかるはずなのに」
「その点でも、この海にいる家族は注目に値するんだ。文化の壁を越えて、新しい血を入れることに抵抗を持たないからな」
「でも、やっぱりお父さんはいないんでしょう?」
「ああ。いくら彼らが進取の気に富むチャレンジャーだとしても、そこは変わらない」
 人間は、知らず知らずのうちに、その関心の対象に似てくるのだろうか。
 少なくとも、これまでのトムの女関係は、シャチのオスの行動をそのままなぞったものだ、としか思えなかった。
 もし、海結がトムの子を宿したら、トムは父親として、海結と子供とともに生きてくれるだろうか。それとも、シャチのオスと同じように、責任も取らず知らん顔を決め込んで去ってゆくのだろうか。
 一方で、トムはそれまでの生き方を変えようとしている。
 亜紗が帰った翌日、トムはすぐにフィッシングボートの夜便運航を取りやめた。
 海結も協力してリーフレットを作り直し、提携先のリゾートホテルや宿に置いてあったものをすべて差し替えた。
 美玲と美琴のように巧妙なケースはあるが、海結がいる以上、トムがこれまでのように不特定多数の女性と関係することは、ほぼ不可能になった。
 元々、ナイトクルーズと称する夜便は、星や月を見るのも良いかもしれない、という単なる思いつきで始めたものだった、とトムは言う。
 それがいつの間にか、トムと一夜限りの関係を望む女性客のルート化し、ボートのバウバースが情事の場になり、トムも性欲が発散できるので、ずるずると今日まで続けてしまったものらしい。
 トムがそれをきっぱり断ち切ったことに、海結は、果断さと本気を見て取った。
 ふと、美玲が言っていた、本物の男、という言葉を思い出す。
 海結の父は、高校卒業まで、地元では名前を知らぬ者のない喧嘩屋だったと聞いた。
 高校を卒業してすぐ秋田から上京、今も勤めている石油化学コンビナートに就職したが、飲み歩いては素手ゴロで喧嘩相手を叩きのめし、始末書を提出することたびたび。
 硬派で徒党を組むタイプでなく、意地でも会社を休まないところはともかく、問題社員だったことに違いはない。
 それが、母と結婚するために、それまでの生き方、荒んだ生活態度のすべてを改めた、という。
 捨てること、改めること、変わること。
 それができる男こそ本物だ、というなら、海結にもわかる気がする。
 陸斗は結婚しても、より怠惰になっただけで、何も変えようとしなかった。トムは覚悟をもって本気で変えようとしている。他でもなく、海結のために、だ。
 私は、それに応えることができるのだろうか。
 海結の心は、希望や不安、自分への懐疑などが、複雑に絡み合って、揺れていた。

 今日は月曜日で、ホエールウォッチングの運航はない日だった。
 トムはシャチの観察と研究のために、今日もフィッシングボートを海に出すが、客対応が主な仕事である海結には、あまり手伝えることがない。
 今日は休暇をもらってある。
 海結が作った弁当をクーラーボックスに入れ、トムが出かけてゆく。砂利を踏んで出発する軽バンを見送り、家の中に戻る。
 知りたいこと、調べたいことがあった。
 美玲と美琴の、その後が気になる。
 パソコンを起動し、動画サイトにアクセスして、美琴のチャンネルで最新の動画を確認する。
 フィッシングボート上で撮影されたものが、上手にまとめられてアップされていた。
 やはり魅惑の母娘だと思う。応援メッセージも相当な数が寄せられている。
 ボート上のシーンが終わると、貸別荘でのお菓子作りに切り替わる。キッチンに並んで、サーターアンダギーという、砂糖の揚げ菓子を作っている。
 動画の最後は、作り終わったサーターアンダギーを食べながらの、美玲と美琴のトークで締めくくられていた。
「クルーザーの船長さんと、従業員の方に親切にして頂きましたおかげで、美琴にもよい経験をさせることができました。この場を借りて、お礼申し上げます」
「すっごく気持ち良かったです! 生まれ変わったみたいな体験をさせてもらいました!」
「はしゃぎ過ぎて、次の日は丸一日ぐったりしてましたけどね。美琴は、また乗りたいそうです」
「えー、ママだって夢中になってたじゃん。あんなママ、初めて見たよ」
「こら、もう」
 コメントの中には「美琴ちゃん色っぽくなったね」という鋭いものもあるが、事情を知らない人には、海でのクルーザー体験を話しているようにしか聞こえないはずだ。
 カメラに向かって、
「ごちそうさまでした!」
と手を振る、美玲と美琴の笑顔。
 この母娘め、と思いつつ、なぜか憎めない。ここまで開き直られると、かえって清々しいというものだ。
 ふと、プロフィール欄でカーソルを止める。
 美琴の生年月日が記されていた。
 信じられなかった。サバを読んでいないか、と疑うが、美玲の話や、美琴の雰囲気を思い出すと、これが本当だという気がする。
 美琴の早熟ぶりに、改めて舌を巻いた。
 あの娘、時間はかかっても、将来必ず大物になる、と海結は思う。母娘の、何でもかんでも取り込んで自らの肥やしにしてしまう姿勢と逞しさが、同じ女性として羨ましかった。

 午後、洗濯物を取り込んでから、海結は玄関に鍵をかけて散策に出かけた。
 トムの帰りは、夕方遅くと聞いている。
 この家で寝泊まりするようになってしばらく経つが、海結はこの土地のことを何も知らない。フィッシングボート運航の手伝いにしても、寄る場所は、漁港と、提携先のリゾートホテルと宿だけだ。
 この地区にはどんな人々が住み、どんな暮らしを営んでいるのか。興味があった。
 未知の場所へ探検に出かけるようなものだった。ちょっぴりの不安をわくわく感で上書きするこの気分は、久しく忘れていたもの。
 海結は、普段はトムの軽バンで通過する狭い村道を、集落と漁港に向けて歩き始めた。
 脚が軽く感じる。動かすことを意識しなくても、自然と先へ先へと進んでゆく感がある。
 道の山側から、本土とは違う濃い緑が迫っている。海結はハブを警戒し、できるだけ道路の真ん中を歩く。幸い、前からも後ろからも車は来ない。
 見上げる空は透明感を増し、いっそう高く見える。太陽の照りは相変わらず強いが、海から吹く風がそれを和らげてくれる。
 陸斗と喧嘩して家を飛び出し、沖縄に来てもう一ヶ月近くが過ぎた。
 その間に、空気も少し変わった。
 肌に触れる風の中に、涼しさを感じることが増えた気がする。
 村道は、漁港のある集落に向けて、ゆるやかに下ってゆく。
 ほどなく、集落が見えてきた。
 集落は、ヤンバルの山と海との間の狭い土地にある。細長い形をしており、二、三軒の家を隔てて、すぐに国道に面している。赤瓦の家は少なく、コンクリート造りの建物が多いせいで、集落全体が白っぽく太陽光を反射している。
 急坂で細い、コンクリート舗装の道がある。海結はそこを下って集落に入る。
 目の前に白い建物が並ぶ。民家と公民館、共同店という集落で運営する、古びた赴きを感じさせる売店があった。
 すぐ先に国道があり、横断歩道を渡って海に面した堤防ぞいを歩けば、いつもの漁港まですぐに着く。
 しかし、トムが海に出ている時間にわざわざ漁港に赴けば、どんなふうに勘繰られるかわかったものではない。
 今日は、この集落までにしておこうと思い、共同店に入る。
 店内には食料品や日用雑貨など、数は少ないながら、暮らしに必要なものがひととおり揃えられている。漁港のすぐそば、という立地もあって、釣りの道具や撒き餌なども売られていた。
「もしかして、トーマスさんのところのひと?」
 突然、店番の初老のおばさんに声をかけられた。
「え、ええ、そうです。従業員です」
「どこから来たの?」
「〇〇県です」
「ああ、本土とは勝手が違うから、大変でしょう」
 イントネーションに少し癖はあるが、標準語だった。海結が沖縄県外の人間だと確認した後は、話す速度がゆっくりになった気がする。
 それにしても、なぜ私がトムのところにいることを知っているのだろう。
 口の重いトムが、周囲に話すはずもない。海結が思考を巡らす間もなく、おばさんは話を続けた。
「最初、トーマスさんが元マリーンだって聞いた時は、やっぱり少し警戒しましたよ、ほら、いろいろあるから」
「そうだったんですか」
「でも、仕事熱心な真面目なひとで。海のことなんか漁師より詳しくて。少し前まで毎朝お弁当買いに来てたんですけど、最近は見えませんね」
「あ、それは……」
 私がお弁当を作っているからです、と言いかけて、口をつぐむ。それを知られたら、このおばさんをとおして、あっという間に噂が集落全体に広がる気がした。
「大昔、このあたりで外国の船が難破したことがあるんですよ。百年以上前の話だけどね、みんなで助けて、亡くなった方は、今もそっちのほうにあるお墓の中にいます。もしかしたら、ここは昔から外国の人と何かしらの縁があるのかもしれませんね」
 おばさんの口は止まらない。もうすぐ始まるシイラ漁のこと、海水温が高くてここ数年不漁続きなこと、高齢化と過疎化が進んで小中学校が廃校になったこと、などを立て続けにしゃべる。
 地区の現実を話されても返事に困るが、ひとつだけ、なるほど、と腑に落ちるところがあった。
 トムのセックスの相手が、もっぱらホエールウォッチングの女性客だったことだ。周囲に高齢者しかいなければ、それより他にチャンネルはない。結果として、トムが地区の人々から悪評を買うこともなかったのだ。
 店を後にする際、冷やかしと思われたら後々トムが困る、と考え、ティッシュペーパーと洗剤、黒糖の菓子類を買う。
「何か困ったことがあったら、遠慮なく言ってくださいね」
 海結は、ぺこりと頭を下げて店を出る。
 ふーっ、と息をつく。海から風が吹き、海結はひやっ、としたものを感じて思わず身震いした。気づけば、肌着の中までびっしょりと汗をかいていた。

 難破船の遭難者の墓は、集落の外れにあった。
 石が積み上げられた形の墓。淡い緑色のつたが這う大きな墓石に、遺体埋葬の事実が刻まれている。
 説明の看板がある。もう一五〇年以上前の、帆船時代の終わりの頃の話だ。
 アメリカに向かっていた商船が、台風によってこの集落の沖で難破した事故。
 この場所に、はるか遠い異国の地で亡くなった船員達が葬られている。生き残った者達は、地元の人々に助けられ、母国に帰還したと言う。
 海結は手を合わせてから、村道を戻る。
 トムは、この地に骨を埋めるつもりなのだろうか。それとも、事故で生き残った者達のように、いずれ母国に帰ってゆくのか。
 歩を進めながら、そんなことを考えた。
 傾いてきた太陽が、東シナ海の水平線に近づいている。
 三〇分もかからず、トムの家の入口まで戻ってきたが、体も疲れていないので、海結はそのまま村道を先へと歩いた。
 トムの家と集落の間と違い、きちんと歩道が整備されている。
 さとうきび畑が左右に広がる。オレンジ色に染まり始めた空の下、電線が北へ北へと伸びる。
 やがて、共同店のおばさんから聞いた、小中学校の廃校跡が見えてくる。
 石積みの入口から校舎に向かって伸びる道の両側には、植えた木々が立ち並ぶ。桜の木だった。
 その形式は、海結が卒業した小、中学校、さらに高校と共通のものがある。
 緑の桜並木の真ん中を歩き、正門前まで来る。錆びた門扉が固く閉ざされ、中に入ることはできない。
 立入禁止の注意書きが下げられた門扉の向こうに、鉄筋コンクリートの二階建ての校舎が、西陽を背に佇んでいた。
 敷地の中は雑草が生い茂り、人の姿が消えて数年は経つことを海結に教えている。
 しばらくの間、そのうらぶれた光景を眺めていた。
 校舎は左右に広い。かつての教室を数えてみる。最盛期は相当な数の生徒が通っていたのではないか。
 今もこの学校に子供の姿があったら、ちょうど今は下校時間に当たる。
 下駄箱で上履きから靴に履きかえ、ランドセルを背負って家路につく、そういう時代が海結にもあった。
 海結が通っていた小学校は、通学路の交通量も多く、近隣に不審者が出たこともあって、集団登下校を実施していた。
 海結は、登下校班の班長だった。
 下級生の面倒を見ながら歩く海結は、なぜかいつも年少の男の子達にまとわりつかれた。先を争って海結の隣を歩こうとし、後からふざけて抱きついてくる子もいた。
 その輪の中に加われず、いつも班の最後尾にいたのが陸斗だった。
 当時、おかっぱ頭だった陸斗。その中性的な外見もあって、男子からは女の子みたいとからかわれ、女子からはちょっかいを出されることが多かった。
 機敏さに欠き、おしゃべりをしながら歩く女の子達にも置いてゆかれる始末で、海結は、陸斗が班から脱落しないようにいつも気をつかっていた。
 陸斗は、海結が特定の男の子に世話を焼くと、ランドセルの肩ベルトをぎゅっ、と握りしめて泣いた。
 その歪んだ顔が思い出される。
 今、私は、その頃と同じことをしていないだろうか。
 陸斗ひとりを置いて、トムと同じ家に暮らし、体まで許している。遠く離れた場所で、陸斗は何も知らないまま、孤独のうちに泣いていないだろうか。
 風が、桜の葉をざわざわと揺らす。
 胸の中を、冷たい風が吹き抜けてゆく。それは、海結の中にある熱を否応なく奪い去り、意識を逃げ場のない現実に向き合わせる。
 アパートを飛び出した時、部屋に残してきたものの重さを。
 トムの腕に抱かれるたび、抗えない感情に絡め取られてしまう自分のことも。
 答えを出せないまま、陸斗への罪悪感と、トムへの恋慕の間で、ただ立ちすくんでいる自分がいる。
 幻の子供達が下校した後の廃校は、不気味なくらい静まり返っていた。
 夕陽はさらに水平線に近づき、校舎の背から海結の頭上に向かって、空の色がオレンジ色から深いブルーへと変化してゆく。
 海結の目の先で、校舎が、黒いシルエットとなって浮かび上がっていた。



 スコールだった。
 その日は、午前中から、普段にも増してどこか蒸し暑かった。
 黒い雲が空を覆い始めたと思った矢先、いきなり大粒の雨が降り出した。
 コンクリートの屋根を雨が叩く。その音が、途切れることなく聞こえている。
 部屋の端に目を向けると、かごの中に洗濯物が溜まっている。
 日曜日の今日、ホエールウォッチングの午前便を運航する日だった。トムは天気予報を見ることなく、今日の雨を予測して、早々と運休を決めていた。
 そのトムは、フィッシングボートの整備のために名護市まで出かけている。
 海結はテレビをつけ、テーブルの椅子に腰を下ろした。
 全国的に午後から雨模様だった。
 ニュースが、連日の猛暑が、雨でひと段落したことを告げる。雨が止めばまた暑くなるものの、暦は少しずつ秋に向かっている。
 共同店で買った黒糖のかたまりを口に含む。硬い。かみ砕けず、ゆっくり溶かしながら味わう。甘さとほろ苦さのバランスが良い。かたまりが溶け切らないうちに、次のひとつを手に取った。
 スマホが着信を告げている。彩夏からだった。
 黒糖を口に含んだまま電話に出る。
「あ、海結、今大丈夫?」
「ん、平気」
「何か食べてた?」
「ごめん、黒糖食べてた」
「すっかり沖縄に染まってるね。知らせたいことがあって」
「何かな?」
「今日、陸斗が私のとこ、来たよ」
 その名前を聞いた瞬間、海結は血液の流れが止まったような感覚に襲われた。
「買い物から帰ってきたら、うちのマンションの前にパトカーが停まっててさ、陸斗がおまわりさんに職質されてた。全身びっしょり濡れて。びっくりしたよ」
「ええっ! 何で?」
「傘も差さないで、ずっとマンションの前で、私が帰ってくるのを待ってたらしいの。それで不審者と思われて通報されたみたい。私からおまわりさんに説明しけど、なかなか納得してくれなくて、苦労したわ」
「嘘……どうして、陸斗はそんな馬鹿なことしてるのよ」
「何でも、スマホ壊して、事前に連絡できなくて、天気予報も見てなかったんだって。それで、うちに上げようとしたけど、手紙だけ私に預けて、すぐに帰った。海結に渡して欲しいって」
「手紙?」
「そう、手紙。私が海結の居場所教えないからね。そうするしかなかったんだと思う。ちょっとだけ話はしたけど」
「それで、私へは何て?」
「ううん、それは何も。伝えたいことは手紙に書いてあるんでしょ」
「そう……」
「私ね、陸斗のことちょっと見直したよ」
「えっ?」
「真剣だった。しっかり私の目を見て話をしてた。どしっ、と落ち着いてたし。傘貸そうとしたんだけど、いつ返せるかわからないからって、そのまま濡れて帰ったけど……そうだね、初めて陸斗が男に見えたよ」
「陸斗が……」
「水も滴るいい男、だったよ、本当に」
「……」
「手紙はどうしようか? そっちに送る?」
「うん、悪いけど、そうしてもらえるかな?」
「わかった。わかったけど、海結はまだこっちに帰ってくる気にならないの?」
 海結は、すぐに返事ができない。電話の向こうで、彩夏が海結の声をじっと待っている様子がある。
「……わからない。わからないけど、今は、まだ。もう少し、時間が欲しい……」
「そろそろさ、その巨乳、誰かに揉んで欲しくて寂しい思いしてない?」
「寂しくなんてないから!」
「冗談、冗談。そっちに行ってしばらく経つし、ホームシックにかかってないか心配したけど、大丈夫そうだね」
「まあ……うん」
「送るところは、前に聞いた住所でいい?」
「うん、悪いね、彩夏」
「いいって。速達で送っとくから、届いたらちゃんと読んでやって」
「わかった。お願いね」
「また連絡するわ。じゃあ」
 通話が切れると、雨音がまた耳に戻ってきた。
 口の中の黒糖は、まだ完全に溶け切らず、ざらりとした粒が舌の上に残っている。
 テーブルに置いたスマホを見つめたまま、大きく息を吐く。胸の奥が、ざわざわと落ち着かない。
 陸斗が男に見えた、と彩夏は言っていた。あれだけ陸斗に対して辛辣だった、男を見る目に厳しい彩夏が。
 彩夏の言葉が、頭の中で何度も反響する。そのたびに、心の奥底に隠して、向き合うことを避け続けてきたものが、よりはっきりと、硬質な感覚を伴って迫ってきた。

 期日指定の速達で送ったと、彩夏からLINEで連絡があった。
 今日、それが届く。
 海結はトムに、少し具合が良くないと嘘をつき、フィッシングボートの仕事から、家での資料作成の仕事に切り替えてもらった。
 〇〇大学環境学部から、海水温調査のためのチャーター予約が入っている。そのための資料だった。
 しかし、トムがひとりで出かけた後、海結は資料作成の仕事に取りかかることもできず、部屋の中をうろうろしながら手紙の到着を待った。
 そうしていないと、不安で押しつぶされそうだった。陸斗の手紙には、いったい何が記されているのだろうか。
 早く帰ってこいという叱責か、恨みつらみが書かれているのか。もしかして、離婚を切り出すつもりなのか。
 気が気ではなかった。
 家の外で、郵便配達の軽バンの音がすると、海結はすぐに玄関ドアを開け、直接封書を受け取った。
 表に「トーマス鯨類研究所方 〇〇海結様」と、彩夏の字。
 ベッドに腰をかけ、封を開ける。中にまた封書が入っている。
 震える手で、一度雨で濡れて歪んだ封書を開け、便箋を取り出して広げる。
 ボールペンで書かれた、陸斗のたどたどしい字。一度鉛筆で下書きをしたらしく、消しゴムの跡が残っていた。

「海結へ

 元気ですか。とても心配しています。
 彩夏さんが海結の居場所を教えてくれないので、手紙で伝えることにしました。
 海結が出ていってから、ずっとその理由を考え続けています。
 夫なのに、海結とちゃんと向き合えていなかったし、甘えるばかりだったと反省しています。
 海結に仕事をやめさせたのも、俺のわがままでした。海結が結婚記念日のことをちゃんと考えていてくれたのに、それを当然だと勘違いをしていました。
 本当に、ごめん。
 自分でご飯を作ったり、洗濯してると、海結が全部やっていてくれてたんだと思って、自分が情けなくなります。
 スマホで時間をつぶすのはやめました。海結がいつ帰ってきてもいいように、家はきれいにしておくつもりです。料理も覚えようと思います。
 俺の見えないところでがんばってくれてた海結に恥ずかしくないように、仕事も本気で取り組んでいくつもりです。
 俺は小さい時から、ずっと海結だけを見てきました。海結が俺と一緒になってくれて、本当に嬉しかった。
 その気持ちは、今も変わりません。俺には、海結しかいません。
 帰ってきて欲しいと言える資格はないかもしれませんが、海結ともう一度やり直したい。
 俺はずっと海結の帰りを待ちます。
 どんなに時間がかかっても、海結の帰りを待ち続けます。

陸斗」

 初めて聞かされる、陸斗の率直な思い。
 視界がにじんできた。こぼれた涙が便箋に落ちて、雨染みの上に新しい染みを重ねた。
「う……うう……陸斗……」
 嗚咽が漏れ出し、肩が上下に揺れる。
「うう……うわあああ」
 感情を押し留めていた堤防が崩れた。
 自分の中にたまり続けていたものが、涙と声の奔流となって、外へあふれ出してゆく。
 海結は、便箋をぎゅっと抱きしめながら、ひたすらに泣いた。

 夕方、トムが帰宅する。
 その頃には、海結も落ち着きを取り戻していたが、泣きはらした目元まではごまかせない。
 朝、具合が悪いと聞かされていたせいもあってか、トムは海結の目元が赤いことを、体調のせいと思っているようだった。
 じっと海結の顔を見て、心配そうにまゆの形を歪めた。
「大丈夫か」
「うん、大丈夫、もう平気」
「俺がご飯作るか?」
「本当に大丈夫だから」
 海結は笑ってみせたが、トムの顔は浮かない。
 トムが素潜りで獲ってきたピタローと呼ばれる白身魚。これをバター焼きにして夕食のおかずにする。
 トムに料理を任せても、ピタローのぶつ切りが生のまま出てくるだけだ。
 黙々と食べながら、ちらり、ちらりと海結の顔を確認するトム。心配させていることと、隠し事をしていることが心苦しい。
 食事の後片づけをして、いつものように、海結、そしてトムの順序でシャワーを浴びる。
 今夜も、トムは海結を求めてくるだろう。
 気分ではなかったが、海結はタオルケットの中に潜り込んでトムを待った。
 しかしトムは、
「もう休め。具合が悪いなら、すぐに言ってくれ」
と、ひと言残し、ハンモックのほうで寝てしまった。
 灯りが消され、月と星の明るさだけになる。海結は天井を見上げた。
 いつもなら、抱かれる高揚感も、胸の奥の切なさも、後ろめたさも、全部を受け止めてくれる逞しい胸がある。
 久しぶりにひとりで横になっていると、言いようのない寂しさ、罪悪感と不安、そういう整理のつかない感情が、いっぺんに押し寄せてくる。
 迫りくるものに焦燥感を覚えながら、海結は目を見開き、天井の一点だけを食い入るように見つめ続けた。

(続く)
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