「こぶた」に婚活は難しい〜あなたの事なんて、狙ってませんから。〜

商店街の3人目(3)

バスが商店街に着いた。アーケードのない、まっすぐ伸びた一本道の両端に商店がひしめいている。
とはいえ、シャッターの閉まった店もちらほら見かけて活気を取り戻したい気持ちが分かる。

「はぁい。皆様。ここからは亀田ハッピー商店街の会長様より説明がありますので聞いて下さい。」

「こんにちは!この商店街の会長をしてます。福田です!」
マイクがあるのにいらないくらい大きな声で話している。

「我が亀田ハッピー商店街は戦時中の闇市から発展した、歴史の古い商店街でしてーーー。」
おお。歴史から始まった。周りを見ると皆の顔がしらけてきている。
佐々木さんも慌てて、どこで止めようか迷っているようだ。
熱く語る会長さんのスキを見て、佐々木さんが説明を始める。
内容はこうだ。まずは皿とスタンプカードが配られる。ノボリのある店舗の中から5つ食べたい物を選んで、皿に入れてもらう。5個以上は有料。空いてる店舗のいくつかが休憩所になっていてそこで食べる事が出来る。休憩所にはお茶と水が用意されていて、自由に飲むことが出来る。

なんてワクワクする企画!
「林さん。目星をつけてる店はありますか。」
大林さんが身体を少し曲げて聞いてきた。
倫子は視線を上げた。
うわあ。大きい人だとは思ったけど、見上げる大きさだ。180センチ以上はある?スポーツしてたからか、肩幅や胸板も厚いんだ。ちょっと威圧感あるなあ。
少しでも目線を近くしようとしてくれてるのかな。顔が近くなってドキッとする。
倫子は自然に見えるように笑顔をつくり、あははと笑い
「実はリサーチ済みなんですよ。」
と会長のほうを向いた。顔赤くなってないかな…。
大林さんも元の姿勢戻り、前を向いた。
「そうですか。では林さんに全て任せます。」
と微笑んだ。
倫子はチラリと横目で大林さんを見た。
いやホントイケメン。こんな人が私と回ってくれるなんて夢みたい。

「Pちゃん,浮気はいけないなぁ。」
右横でいきなり声がした。
バッと振り向くとそこには高坂さんがニコニコしながら立っていた。
「1日ずっと俺を放っておく気かな?」

また、邪魔しにきたのか!高坂凌太!
ついに倫子の心の声は呼び捨てになっていた。
「高坂さん。誤解のある発言はやめていただけませんか。」
横目でキッと睨んであえて丁寧な言い方で返した。
「えー。だって俺とPちゃんの仲なのに、今日はやけに冷たいよね。俺との関係、隠したいの?」
シュンとした顔できたって騙されないんだからね。
「何回も言いますけど、働いてる場所が同じなだけですよね?」
倫子は冷たくあしらう。
「…そっか。Pちゃんは男が出来ると冷たくなるタイプなんだ。」
なっ!なんてことを!大林さんの前で!!
倫子は大林さんに(違いますから!)と身ぶりで説明すると、高坂さんのほうをむいて拳を握りしめた。頭にどんどん血がのぼる。

ぎゅっと目をつぶり、妄想部屋から高坂人形を取り出して、ボディブローを連打し、足蹴りで吹き飛ばした。
ふう。これ以上のせられてはいけない。

「高坂さん。先ほどからあちらの女性から熱い視線がきてますけど。」
チラリとそちらを見ると、水族館女子メンバーがこちらを見ている。いや、正確には睨んでいる。
おーこわ!せっかく良い雰囲気なのに巻き込まれたくない。
「Pちゃんもだけど?」
えっ?と言う顔をすると、高坂さんが目線で“あっち”と示した方向を見ると、ショルダーベルトを握りしめ、眉間にシワを寄せる二階堂さんがこっちを見てる!
こ、こわ!イルカショーを邪魔されたのがそんなに嫌だったのかな?
「罪深いねぇ。気のある素振り見せるから。その気にさせちゃったんじゃない?」
高坂さんはニヤニヤしながら倫子を煽った。
「なっ!」
一言言い返そうとしたその時。
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