「こぶた」に婚活は難しい〜あなたの事なんて、狙ってませんから。〜

商店街の3人目(5)

倫子は一瞬何が起こったのか分からなかった。
しばらく地面にペタリとしゃがんでいた。
膝がジンジンと痛い。今日のために買ったゆったりめの白パンツは食べ物と土でドロドロだ。

「あら。ごめんなさい。ぶつかっちゃって。」
この声は。
見上げると。やっぱり高坂さん狙いの女子グループの1人。あのきれいな人だった。
悪いと思ってないのは見え見えで、そばにいた女子達もクスクス笑っている。
「悪気はなかったのよ。よそ見していてごめんなさいね。」
…こう言われては言い返す事も出来ない。
大林さんがすばやく『大丈夫ですか。』と手を貸して助け起こしてくれた。倫子は、ジンジンする足を押さえながらゆっくり立ち上がった。
「大丈夫です。」
心配そうにする大林さんに無理やり笑顔を作った。

痛さと悔しさで目の前がぼやけてきた。泣いたら駄目だ。
(あの子なんか悪目立ちしてるよね)(きのどくー)(カワイソー)ああ。色んな声が聞こえる。
その時だった。
「大丈夫か?」
高坂さんがツカツカと近寄ってきて、私の前にしゃがみ込み、服が汚れるのも構わず、ハンカチで拭き始めた。
【【!!!!】】
その場にいた全員が驚いた。
「怪我は?」
倫子の顔を見あげながら聞いてくる。今の私の顔は涙と鼻水でグシャグシャのはずなのに、高坂さんは優しい声で
「大丈夫だから。元気だせ。」
と頭をくしゃくしゃっと撫ぜた。
その優しさに気持ちがすーっと落ち着いてきた。
「もう、大丈夫ですから。」
倫子もカバンからハンカチを出して、顔と服を拭いた。

高坂さんがすっと立ち上がり、女子グループのほうに向き直った。
女子グループはヒィッと顔を引きつらせた。倫子からは高坂さんがどんな顔をしているかは見えない。

「君達。さっきはお腹が空いてないから、バスに戻ると言ってなかった?」
「あ〜。えっと。美味しそうなアイスを見つけてーー。」代表格の女性が少し押され気味になって話した。
「そうなんだ。」
高坂さんの声のトーンが下がる。
「ぶつかった人を助け起こさず笑ってるなんて性格悪すぎだね。」
(意中の人にあんな事言われたら立ち直れないな)
「そんなだから婚活ツアーなんかに来る羽目になるんだよ。」
その場の空気がサァァと凍った。
(高坂さん、周りを一気に敵に回しちゃいましたね)
女子グループは可哀想なくらいシュンとしてしまっている。
言うだけ言うとクルリと向きを変えて、優しく笑って倫子の手をそっと引いた。
「おいで。」
その顔があまりにもイケメンで。倫子は引かれるままにぼーっとなりながら黙ってついて行った。

その場にいた女子全員が高坂に釘付けになったのは言うまでもない。
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