「こぶた」に婚活は難しい〜あなたの事なんて、狙ってませんから。〜

商店街の3人目(6)

わけも分からず、ブースにあるテーブル席に座らせられた。
「あー。服はこれ以上落ちないね。よく似合ってたのに。」
「しょうがないです。結構派手に転んだから…。」
倫子は急に恥ずかしくなってきた。あんなに期待してきたご飯も食べられなくなって。ホントついてない。
(あ、肝心な事を言ってなかった)
「あの。高坂さん、ありがとうございました。」
ペコリと頭を下げた。
「助けてもらって。あの人達にも言い返してくれて。お陰でスッキリしました。」
「どういたしまして。」
高坂さんはふわっと微笑んだ。
倫子はその顔にドキッとした。何だか……。
「昔に戻ったみたいだな。」
高坂さんが頬杖をつきながら倫子に微笑む。
そうだった。昔はこんな感じで話していたんだった。

倫子が2年前、今の会社に勤め始めた頃、常連だった高坂さんは新人だった私の緊張をほぐそうとしてくれたのだろう。倫子に毎日おすすめを聞いてきた。そのチョイスが高坂さんの好みにハマっていたらしく、「いつもありがとう。」と言われるのが嬉しくて、そのうち体調悪そうな時は消化に良い物や、食べ合わせを考えたりしてたっけ。

ところがある日から高坂さんは私を“Pちゃん”と呼ぶようになり、高坂さんの周りの人達からもイジられるようになって……。

でもいくら太ってても“PIG”は失礼でしょ。そんな事さえなかったら、いい関係だったはずなんだけどなあ。

ぐうぅ。
お腹が鳴っちゃった。
クククッ。
高坂さんが吹き出した。
「さすがPちゃん!こんな事があっても、食欲は衰えないか。」
カァァーーー。
思わず真っ赤になる。
なんでいつも、最悪のタイミングの時にいるの!

「林さん。大丈夫ですか?」
ーーヤバい!私ったら大林さんの事抜けてた。
「すみません!すっかり大林さんを放っといてしまって。大林さんもまだ、食べられてないですよね。」

「私の事は気にしないで下さい。怪我がなくて何よりです。高坂さんが席に連れて行かれたのを見て、とりあえず、そちらはお任せして私はこちらを。」
なんと、落とした筈の皿が元の姿になっていた。

「お姉ちゃん!」「お嬢さん!」
なんと、さっき寄ったお店の人達が来てくれていた。
「転んだって?災難だったなあ。俺達の店の商品をこれだけ愛してくれてる子に食べて貰えないなんて、こっちも夢見が悪いってもんよ。さあ、食べてくれ。」
そう言って置いてくれた皿には私が頼んだ物以外も入っていた。
「こっちの兄ちゃんが知らせてくれてさ。皆から貰ってきのさ。」
ゔう。嬉しい。
「ありがとう!おじさん達!さっそく頂くね。」
ちゃんとデザートのシュークリームまである!
「おうよ。そっちの兄ちゃんも味わっていってくれ。」
そう高坂さんにも声をかけた。
高坂さんはありがとう、頂きます。と手を合わせると自分の皿に取り分け食べ始めた。
「このコロッケヤバい。美味すぎる。」
「でしょ?他にはない味ですよ。」
「林さんおすすめの松前漬けもイケますね。」
「これには隠し味に使われてるものがあるらしいんですが、企業秘密だそうで…」
私達3人は楽しく食事をしたのだった。

< 14 / 22 >

この作品をシェア

pagetop