「こぶた」に婚活は難しい〜あなたの事なんて、狙ってませんから。〜

水族館での2人目(1)

(はあ。まあいっか)
倫子は同じく置いてけぼりにされた男性に声をかけてみた。
「あのう。林倫子って言います。宜しくお願いします。」
急に話しかけたせいか、男性はびっくりして倫子のほうを振り向いた。
わあ。おめめクリクリ!かわいい顔の人だなあ。
「は、はじめまして。二階堂一歩(にかいどうはじめ)と言います。」
二階堂さんは緊張しながらもあいさつしてくれた。
うん。好印象。
「わあ。」
入口を入ると、水族館というより、身近な景色に似た水槽が並ぶ。東京湾や品川の周りの地域の展示コーナーらしい。きれいな魚を見るのも良いけど、こういう自然を切り取ったかのようなのも好きだ。

「なんだか、夏休みに遊びに行った場所みたいですね。」
隣りに並んだ二階堂さんが水槽を見ながら話しかけてきた。
そうそう。私もそう思った。
「わかります。うちの実家は田舎だからこういう風景たくさん残ってて。あ、でも寒いからか、海は違うかも。」
「出身はどちらなんですか?」
「岩手です。都心じゃないから周りは田んぼだらけでーーー。」
二階堂さんはニコニコ話を聞いてくれている。
(この人、話ししやすいなあ。高校の友達と話してるみたいだ。身長も165センチくらい?目線が合うのも嬉しいな。同じグループの人達とは合わなそうだったから二階堂さんいてくれて良かったー)

「そろそろイルカショーの時間だから、僕たちも行きましょうか。」
「はい!」
私達は途中の売店で飲み物を買って、イルカショーへむかった。

日曜日なこともあり、前のほうはほぼ満員だった。奥の上のほうはまた余裕がある。
「あそこ、どうですか?」
倫子が指を指すと、キョロキョロ席を探してくれていた二階堂さんがにっこりして
「いいですね。行きましょう。」
と倫子の手を握った。

(!!!)

手を引かれながら倫子は心臓がバクバクしてきた。

(ど、どういうこと?べ、別に深い意味はないよね?だってめちゃくちゃ自然だったし。あたしの手、汚れてないよね?汗でてたらどーしよー)

二階堂さんは振り向きもせずにどんどん歩いていく。
なんとなく、耳が赤く見えるのは、急いでいるから?

席に着くと二階堂さんがガバっと頭を下げた。
「ごめんなさい!さっき会ったばかりの女性の手をいきなり掴むなんて。引いたよね。」

二階堂さんは下を向いてしょんぼりしながらショルダーバンドをギュッと握りしめた。
きっと思わずしたことだろう。
「気にしないでください。席がとられないように急いでくれたんですよね、ありがとうございます。」
私がニコッとすると、二階堂さんはホッとしたように顔を緩ませた。
(この人、ホント子犬みたい。耳とブンブン振るシッポが見える気がする。憎めないなあ)


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