天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
そうして、一週間に及ぶ薬剤の投与が完了した。
あとは国内でのフォローに入ることとなり帰国して、しばらくたったある日のこと。
帰宅しようと大学の門のほうから通りに出ると、さらりと春の夜風が髪の毛を揺らした。
すっかり満開になった桜が、街灯でぼんやりと白く光る。
「綺麗……」
ついついそう漏らしながら、鞄を抱え病院から最寄り駅へと続く遊歩道を歩く。
宗司さんはすっかり元の調子だ。いや、更に元気になっている。
病気があってあのバイタリティーだったのだ。寛解が近いいま、更にエネルギッシュに動き回っている。
無理はしてほしくないのだけれど、こっちが本来の宗司さんなのだろう。
「救急をやってる人たちの体力は底なしだとは思っていたけれど」
街灯でぼんやりとした影が石畳に伸びる。
それを見ながらなんとなく、ここ最近の宗司さんの元気っぷりを思い出して頬を熱くした。
ほんと、元気だ。
帰ってくるなり押し倒されることもしばしば……。
私は誰に聞かれているわけでもないのに恥ずかしくなり、小さく咳払いして足を速めた。
と、植え込みの向こうで一台の車が路肩に寄せ、停車した。
「志季子、お疲れ」
と、車のほうから声を掛けられ、口角を上げる。
「あ、ゆーちゃん。お疲れさま」
「帰りか? よければ家まで送ろうか」
「いいよ。駅まですぐだし、まだ二十時前だし」
「いや、危ないから乗って行けって。お前になにかあったら、香月先生にどやされるのオレだぜ?」
冗談めかして言われ、苦笑する。
相変わらず宗司さんはゆーちゃんを敵視しているけれど、ゆーちゃんからは幼馴染である私に対する親しみしか伝わってこない。
「ふふ、じゃあお邪魔しようかな」
助手席のドアを開き、座る。
「いいよ。家、どっちのほうだっけ」
家の住所を告げると、彼は「おーけー」と気楽な感じで返事をして、車を発車させた。
「桜、もう満開なのかー。大人になると一瞬だよな、時間がすぎるのって」
「わかる」
「そういえばさ、小さいころ……」
ゆーちゃんと思い出話をしているうちに、ふと気が付く。
「ゆーちゃん? 道、違うよ」
車はどうやら反対方面に向かって走っているようだ。道を間違えたのかな?
「違わないよ。今から志季子はオレと来るんだから」