天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
「……へ?」
私はポカンと運転するゆーちゃんを見つめる。ゆーちゃんは前を向いたままほのかに笑う。
「志季子、もう大丈夫だよ」
「何が……?」
「これからは、オレが君を守るから。意に染まない結婚なんて、しなくていいんだ」
私は混乱しながら、まだ誤解があるみたいだと苦笑する。てっきり、その辺の誤解は解けていると思っていたのに。
「ゆーちゃん? 大丈夫だよ、私、自分の意志で彼と婚約したの」
「嘘だ!」
ゆーちゃんが叫びハンドルを叩いたせいで、車が一瞬ふらつく。
「きゃあっ」
「嘘だ、嘘に決まってる。君があんな独善的な男に惚れるなんてありえない。池崎先生に聞いたんだ、君は脅されて香月先生と婚約させられたんだろう?」
「そんなこと」
「奨学金を盾にと聞いたけど?」
私は息を吞む。その情報はどこから漏れたの?
「……ほら。やっぱりそうだ」
「あ……違うよ。きっかけはそうだったかもしれないけど」
「きっかけがどうであれ、好きな女性を手に入れるために脅迫するような卑怯な真似をする男と君が結婚する必要はないんだ!」
狭い車内で激高され、息が詰まる。
なにしろ、アクセルを踏んでいるのもハンドルを握っているのもゆーちゃんなのだ。
軽率に彼の車に乗ったことを後悔するけれど、それどころじゃない。
「ゆーちゃん。誤解だよ」
少し混乱しつつも伝える。
池崎先生は正確な情報を掴んでいたわけじゃないらしい。
ということは、そもそも奨学金云々というのもたまたま当たっただけで、ゆーちゃんを動かすためのブラフだった可能性がある。
まだ諦めてなかったのか、池崎先生。
いや、親戚の皆さんの差金かもしれないけれど。
「私は宗司さんが好きなの」
「嘘だ!」
スピードが上がって冷汗が垂れる。
「ゆーちゃん。落ち着いて、スピード出すぎ」
夜とはいえ、都内の交通量はかなり多い。そんな中、こんな無謀な運転をしていれば事故につながりかねない。
「ああ。……ごめん」
ゆーちゃんはそう言いながらスピードを緩める。
「とにかく、これからはオレが志季子を守るから、心配しないで」
話が通じない。眉を寄せた私に、ゆーちゃんは更に言い募る。
「あんな、医者の風上にも置けない卑怯なやつに、大事な幼馴染を奪われてたまるか」
「ゆー……ちゃん」
自分の声が低くなるのを覚えながら、私は続ける。
「それは、聞き捨てならないよ」
「なにが」
「医者の風上にもおけないって」
宗司さんの努力を私は知っている。
宗司さんの矜持を私は知っている。
患者のために文字通り命を張っていたことを、知っている。
だから、スルーなんてできなかった。
「宗司さんはいいドクターだよ。そこは訂正してほしい」
「嫌だ」
ゆーちゃんは声にイラつきを滲ませ、ハンドルを指でたたく。
「絶対に嫌だ。どうせ患者を金儲けの手段としか思っていないような……」
「そんなはずないでしょう!」
私は叫ぶ。
「彼がどれだけ一生懸命なのか、あなたは知らないでしょう⁉ どれほど患者さんのために必死なのか、知らないでしょう⁉」
ゆーちゃんを睨みつけ、言い捨てる。
「なにも知らないくせに、知った口を利かないで!」