天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
談話室に行くと、スーツ姿の刑事と思しき男が二人、椅子から立ち上がり頭を下げた。
名刺を受け取り、滑る視線で名前を確認をする。
肩書は警視庁捜査一課――捜査一課?
警察には詳しくないが、殺人だの強盗だのを調査する部署じゃないのか?
「一体なにがあったのですか?」
声は空気がしぼんだ風船のようだった。俺はふらりと椅子に座り、彼らを見上げる。
「失礼ですが、香月先生は、吉武さんの……」
「婚約者です」
刑事たちは「いたたまれない」といった顔を見合わせて俺の向かいに座り、鴻上を逮捕したことを告げた。志季子の婚約者ではなく、鴻上の上司、いち理事として話を聞こうとやってきていたらしい。
鴻上が自供したところによると、鴻上は志季子を“助けようと”していたらしい。俺から助けようと彼女を連れ去ろうとして、失敗し、もみ合った際に志季子は階段から受け身も取れずに落下した。
通報した通行人の証言によると、鴻上がむしろ突き落としたようにも見えたらしい。
怒りで腑が熱を持つ。同時に捜査一課である理由が分かった。殺人未遂を疑っているのだ、彼らは。
「単純にバランスを崩しただけで、あんなに強いダメージを受けるとは考えづらい、というのが我々の見解です」
それは俺の見立てとも合致していた。息がしづらい。
鴻上が目の前にいたらきっと殴るどころじゃ済まなかっただろう。
「香月先生。鴻上がアメリカから帰国した理由はご存じですか?」
「いや……ウチの理事の紹介です」
もう発言権を失いかけている、俺の縁戚。
病院を手に入れようともがいている哀れな金の亡者が、池崎の味方にするため外部から医師を招いていた時期にやってきたドクターだった。
「実は、鴻上はあちらで同僚につきまといをして、トラブルになっていたのです」
俺は口元を覆い、じっと談話室の窓を見つめる。腹が立つくらいにのどかな空が見えた。
窓ガラス全部割って暴れてやりたい衝動にかられる。
そうすれば少しはこの胸の重みが軽くなるだろうか?
小さく息を吐く。ぎりぎり残っている理性が俺の口を動かした。
「つきまとい……というと、ストーカーでしょうか」
「ええ。どうも、思い込みが激しいタイプのようです」
俺はため息をつく。
それを知っていれば――志季子の親しい幼馴染というだけで、油断していたのだろう。俺も、志季子も。
だが、背後から誰かが奴になにかと吹き込んだ可能性が高い。俺から志季子を奪うために。池崎か、親戚連中か。
わからない。なら全部潰しておこう。
祖父の頼みで平和的な解決を目指していたけれど、もうダメだ。
ラインを勝手に超えたのはあいつらなのだから。
「我々は、鴻上が吉武さんにも同じことをしていたのではと踏んでいるのですが、なにか心当たりはありませんか?」
「……そういえば、デスクを荒らされたり後を着けられたことがあると」
池崎の仕業じゃないかと志季子は言っていたが……鴻上だったのか。俺は唇を噛む。どうしてもっと深刻にとらえなかったんだ? 彼女を守れたのは俺だけだったのに。
後悔で息が苦しい。