天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】

 刑事たちが去った後の談話室で、ひとり、両手を見つめる。
 誰かを助けるためだけに走り続けてきた。



「……何の役にも立たなかったな」



 俺は小さく呟く。志季子は俺を助けてくれたのに、俺は彼女を守れなかった。

 ダン! と机に何度も拳を叩きつける。
 やけに軽く聞こえる。
 唇から血の味がする。
 いつのまにか噛んでいたようだ。

「どうして」

 声が掠れる。どうして志季子なんだ。彼女はいい医者だ。これからもたくさんの人を助けたはずだ。なのにどうして。

 ――そして俺の最愛だ。愛おしい人、誰にも何にも代え難い。

 いますぐにでも、代わってやりたい。
 鴻上に突き落とされ、階段に身体を打ち付ける彼女を想像して息苦しくなる。

 ぐっと息を呑んだ。
 痛かったよな、怖かったよな、そばにいてやれなくてごめんな。

 ふらりと立ち上がり、ICUに戻る。
 拳がジンジンと痺れていた。
 けれど、じきに治るだろう。傷一つない。
 俺は両手を閉じたり開いたりしながらクソみたいな現実に嗤う。

「ふ」

 自嘲だった。
 結局俺はこの手が大切なんだ。
 壊すつもりで打ち付けたのに、加減していた。

 今だって「ERに集合」と呼び出しがあれば階段を駆け下りていくのだ。
 救急車のサイレンが聞こえれば、走り出すのだ。

 最愛が目を覚ましてもないのに。
 自分で呼吸すらできてないのに。

 でも、志季子はそれを責めないだろう。
 彼女が愛してくれたのは、医者の俺だから、……それを捨てるわけにはいかないのだ。
 志季子は変わらず眠っていて、俺はそっと形のいい額を撫でる。




「いつ目が覚めるんだろうな、俺のお姫様は」

 数度目の見舞いに来た志季子の両親が帰ったあとの病室で、俺は彼女を見下ろしぽつりと呟く。
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