天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】


 披露宴の後、宗司さんは私を挙式披露宴を行った都内の老舗ホテルの庭に連れ出した。
 お色直しで着た、上品な赤のドレス姿で、だ。
 宗司さん自身は黒のタキシード。こちらもよく似合っていた。

 そうして道すがら、私が口をはさむ余裕すら持たせず、ひたすら「可愛い」「似合う」「俺のプリンセス」といった言葉のシャワーを浴びせかける。

「そ、宗司さん落ち着いて」

 私は身をよじる。というのも、連れ出し方がお姫様だっこだったからだ。逃げ場がない。

「なぜだ?」
「恥ずかしいからよ」
「どうして恥ずかしいんだ? 他に誰もいないのに」

 さく、さく、という地面を歩く音があたりに響く。落葉樹の葉が置いているため、そんな音になるのだ。

 このホテルの庭は和洋折衷でかなり広い。なにしろ小さな滝まである。六月には蛍まで飛ぶというから、本格的に手入れされている。
 宗司さんは私を紅葉の下の瀟洒なベンチにおろすと、「うん」と満足げに口角を上げる。

「かわいい」

 そう言われるたびに、私は新鮮に照れてしまう。目を逸らしながら小さく咳払いした。

「ところで、ここにはなぜ?」
「いちゃつけてなかったから」

 堂々と宗司さんは言い放つ。

「せっかくのドレス姿の君なのに、俺は全く堪能できてない」

 真剣にまっすぐに言われ、私はまじまじと彼の整ったかんばせを見上げる。
 この人、本当に私に『愛することはない』と言い放った男と同一人物なのかしら?

「ドレス作った時、さんざんに試着を見たでしょう?」
「本番とは違うだろ?」
「そうかしら」

 あまりに堂々としているから、ついつい噴き出す。

「うん、やっぱり綺麗だ。君は色白だから、とりわけ赤がよく似合う。次に黒かな……いや、白も捨て難いぞ」

 ひとりで考え込み始める宗司さんを見てまた笑うと、彼も柔らかく目を細める。

「まあ、何色だって似合うな。俺のお姫様は」
 彼はそう言って、私の前で片膝を立てて座る。まるで騎士様みたいに。

「もう、……あれ以来、ちょっと過剰じゃないですか? お姫様扱い」
「後悔したくないんだよ。伝えたいことは口にして、やりたいことはやっておく」

 私は目線を泳がせ、「ごめんなさい」と呟く。
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