天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
私の部屋と全く同じ間取りの洋室、でもベッドに天蓋はついていない。
本棚に医学書がぎっちりと詰まり、パソコンが設置されたデスクの上には紙の束が散乱していた。
香月先生のことだから論文の類だろう。
クイーンサイズくらいはあるベッドで、先生はスウェット姿で身体を丸め、脂汗を額に浮かべている。
「全く、どうして私が一緒に住んでいるのかお忘れのようですね」
「これくらいなんともない」
「あー……熱だけじゃないでしょう」
全身の筋肉や関節が炎症し、痛んでいるはずだ。頭の先からつま先まで。
常人なら、救急医なんて激務、とっくに匙を投げている。
異常なほどの、医療に対する執念だ。
私はざっと診察を終え、部屋に戻って点滴セットを用意した。教授から預かってきていたものだ。
「炎症、さっさと取ってしましましょう? ここまで症状が出ていたら、点滴で入れちゃったほうが速いです」
輸液剤の蓋を取り、ゴム栓をアルコールで消毒しながらにこっと微笑む。
「だが」
香月先生が渋るのは理由がある。
実は、この病気の炎症によく効く薬があるのだけれど、投与はかなり慎重にしなくてはならない。
体重や症状によって投与量が微妙に変わる。
多すぎれば副作用で昏々と眠ってしまうし、少なければ効き目がない。
徐々に投与していくのが一番だけれど、そもそも機序が不明なこの薬は一気に入れてしまわないと効き目が悪くなるのだ。