天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
しかも、そもそも症例数が少ないのでサンプルも希少で、どの量が最適ともまだ判断されていない。
機序は不明だがこれくらいが効く、くらいの発表しかない。
「教授が取ってくださっていたデータがあるので大丈夫ですよ」
眉をひそめている香月先生に、あえて淡々と告げる。
このまま炎症を放っておくと本人が辛い。
それも、かなり。
おそらく先生は明日の出勤について心配しているのだろう。
副作用で眠気が残ったままでは、いい治療ができないと……。
そもそも三十六時間くらいほぼ起きっぱなしみたいな状態がある人にそんな心配をされてもとは思うのだけれど。
注射器をゴム栓に刺し、輸液にいくつかの薬剤をミキシングする。軽く上下して混ぜ込み、準備を続ける。
「さて、先生。チクっとしますよ」
「君なあ……」
香月先生はなにか言おうとしたらしいけれど、結局なにも言わず目を閉じた。
※※※
先生の症状が強く出たのは、きっと今日あった後継者問題に関する理事会でなにかあったのだろう。たとえば、池崎先生を推す遠縁の声が強くなったとか。
責任感が強い香月先生にとって、池崎先生が院長、ひいては理事長の座に収まる事態は何が何でも避けたいことなのだろう。
「責任感、か」
私は目を閉じた、香月先生の彫りの深いかんばせを見下ろす。