天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】

「自分を異物だと認識……ってことは、自分では対処しようがないじゃないですか。花粉症でマスクをすればマシになるとか、そういうわけにはいかないってことですもんね」

 私は眉を下げ「そうなんです」と頷く。

「そのため、免疫の働きを抑制するお薬を服用してもらっています。ただ、それによって感染症などにかかりやすくなるので、その点十分気を付けていただければ。特にうちにかかってもらってしばらくは、まずは症状を和らげるため、強いお薬を使っていましたから」
「ああ、それで妹がしばらく帰省するなと。風邪をうつされたら困ると口っ酸っぱくいわれて」

 息子さんは納得の表情を浮かべる。

「今はお薬も三種類目で、かなり改善されています」
「そうですか、よかった。その、……完治は」
「難しいです」

 私ははっきりと告げた。これは患者さん自身も納得していることだ。

「そう、なん、ですか」

 息子さんの歯切れが悪くなる。私は微笑みを顔に浮かべた。

「ただ、このまま順調にいけば、おそらく寛解までいけると思います」
「寛解……というのは?」
「病院での治療を続けていただくのを前提とはしますが、症状のない、いつもの生活に戻ってもらえるかと」
「本当ですか」

 息子さんの顔がぱあっと明るくなる。

「ほら、言ったでしょう、大丈夫だって」

 患者さんがばしばしと息子さんの腕を叩く。息子さんは心底ほっとしたようで、微かに目元に涙を浮かべていた。




「患者さんのご家族用のリーフレットあるじゃない? あれ、もう少し簡単なやつないのかなあ」

 一日の業務が終わった後、ときどき、ナースステーションでしばらく過ごす。というのも高校からの親友、伊藤亜香里がいるからだ。彼女は高校卒業後、この病院付属医大の看護学科を経て、ここに看護師として勤務している。私は医学部で、同じようにそのまま勤めている感じだ。

「簡単にしすぎても、っていうのはあるくない?」

 今日夜勤の亜香里は、ファイルをめくりながらのんびりとした口調で答えた。時計の針は九時を回っている。今日は忙しかったなあ、とぼんやり考えながら「たしかに」と答える。

「結局、口頭にしないと分かりづらいかな」
「口でっていうか、お医者さまから説明しないと納得できない人って割と多くいると思うんだよ。まあ、気持ちはわからなくもないかなあ」
 おっとり、のんびりした亜香里と過ごすのは、本当に癒しのひと時。と、そこに「よ、吉武先生」という大慌てな声がした。振り向けば、まだ少女のあどけなさを残す年若いナースが少しおびえた表情で立っていた。たしか、今年一年目。川上さんといったかな、一生懸命で患者想いの、いいナースだ。

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