天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
なにしろ隣の部屋だ、なにをしているかとても気になる。
なにより、俺は彼女の患者なのだ。
理事会後発熱したときほどの症状は出ていないにせよ、彼女は診察や治療で俺に触れる。ふたりきりで、ソファやベッドで、無防備に触れてくる。
彼女は真剣なのに、俺は非常に複雑だ。
「はい、気管の音も綺麗です。ちょっと心拍速いですけど」
自宅のリビングにあるソファ。
いつも通りの診察。
聴診器が離され、俺はたくし上げていたTシャツを下ろす。直接触れられると緊張が顔に出そうで、シャツの上から聴診器を当てられたいと医師らしくないことまで考えた。
もっとも、布越しに聞こえる雑音なんか、すでにかなり進行している状態だ。
「最近調子いいですね」
「免疫力があがっているんじゃないか」
恋で。
「そんな言葉はありません」
当然の突っ込みを受けるも、俺はそこから何も返せない。さっさと立ち上がり、部屋に向かおうとすると、「先生」と呼び止められた。
「なんだ?」
振り向きもせずに聞けば、明るい声が返ってくる。
「年越しそば、一緒に食べません? 大晦日だし。買って来たんです」
「ああ……いや、いい。腹が減ったら勝手に食うから。ありがとう」
そう答え、足を踏み出した俺の手を小さな手が掴み、グイッと引く。
「香月先生!」
「……なんだよ」
チラっと見下ろせば、生き生きとした瞳が俺を真剣に見上げている。
ああ、だめだ。
そんな顔で俺を見ないでほしい。
自分が何をするかわからない。俺は君がほしくて仕方ないのに。
目を逸らすと「ほら!」と俺を咎める声が飛んでくる。
「ここ何日か、そんな感じです」
「どんな感じだよ。俺はだいたいいつもこうだ」
「先生」
吉武の声のトーンが微かに落ちる。
「私、なにかしましたか」
俺はハッと吉武を見下ろした。こんな、悲しげな彼女の声を聞くのは初めてだった。
吉武の長いまつげが上下する。まるで辛いことを耐えているかのように……。
あの吉武が? 俺のためにそんな顔を……。
「なにかしたなら、謝罪します。だから、そんなふうに、私を嫌いだって態度に出すのはやめてくれませんか」
嫌い?
思ってもいない言葉に呆然とする俺に、吉武は続ける。
「元から先生に好かれていないのは、もちろんちゃんと分かっているのですが」