天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
志季子がビクっと肩を揺らす。その目にようやく、微かな熱が籠った。
そんな気がした。
俺は正月から仕事があって、次々に救急搬送されてくる急性アルコール中毒の対応に追われた。
自ら進んで飲んでこうなるやつには二度と酒を飲んでほしくない。
「だ~かるぁ~、オレは呑んでな……いんだってえ~」
「わかったわかった」
搬送されてきたときには意識を取り戻していた、というか泥酔して寝ていた患者が看護師に点滴の針を刺されて目を覚ますのと、車に轢かれた患者が運び込まれてくるのは同時だった。
「だかるぅぁ、せんせえ、おるぇはねえ」
「わかった、寝ていろ」
「はあい」
モニターに繋がれ泥酔患者が機嫌よく手を上げ、俺は天井から下がったカーテンを開き走る。
「血圧は?」
救急隊員にストレッチャーに乗せられ運ばれてきた患者を、左右に割れるスクープストレッチャーごと「せーの」と声をかけて処置台にうつす。
「エイシス!」
看護師の声が響く。
さっきの泥酔患者がご機嫌に歌いだすなか、俺は「アドレナリン用意しておけ!」と叫び心臓マッサージを開始する。
とにかく三が日はずっとこんな感じで、四日になるとようやく少し気が抜けた。俺はフラフラと歩きながら院内カフェに向かう。
「香月先生、さすがに顔色がひどいですね」
「君もな」
同僚と軽口を交わしながらカフェに入ると、テイクアウトを待つ志季子の姿が見えた。落ち着いた赤のスクラブに白衣。
彼女が顔を上げ、俺を認めると眉を寄せた。
「先生、さすがに顔色が。寝ていますか」
ここ三日、俺の健康状態をチェックできていない志季子が患者を診る目で俺を見上げる。
「寝てない」
「理事なんだからもっと人手を増やすようにですねえ」
「そのうち」
俺が答えると、志季子は少し眉を下げる。
利益率とうるさい一部の理事を排除しないと……あいつらのバカ高い報酬のために現場は疲弊している。
「志季子」
名前を呼ぶと、彼女は顔を上げ、それから俺の同僚に気が付き微かに頬を染めた。
「先生、職場では名前で呼ばないでください、さすがに」
「休憩中」
俺は答えながら、彼女の肩に頭を乗せる。
「せ、せせせせせ先生っ」