天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
私が叫ぶと、宗司さんは楽しげに肩を揺らした。
からかっていただけらしい。
ただ彼は怒る私を見て幸せそうに目を細める。可愛い、とその視線が言っていて、なんだかいたたまれない気分になる。何をどうすればいいのか、まったくわからない。
「さて、でかけるか」
「え、せっかくの温泉なのに」
ロウリュできるサウナもあるらしい。てっきり朝からそういうまったりモードなのかと思ったのに。
「整いたい。整いに行きましょう」
「まだ昼前だろう」
「それはそうですが」
私は首を傾げ、スタスタ歩く彼に続いた。本間のほかに寝室がふたつ……ああ、気を使ってくれている。
まあ、同じ部屋で眠るなんてことがあったら、家まで帰れる場所だから私が帰っちゃうと思ったのかな。
なにしろ電車で十五分の距離だ。車だって寝起きでぼうっとしている間についた。
「というか、出かけるならお化粧くらいさせてください」
いきなり連れ出されたからすっぴんだ。ぎりぎり着替えはできたけど、ジーンズにトレーナーとこんな高級旅館には似つかわしくない格好だ。幸い、旅館内は浴衣があるようだ。
「大丈夫だ」
「宗司さんは大丈夫でもですね」
「君はそのままでも綺麗だ」
宗司さんが振り向いて言う。大きな窓から差し込む陽光で彼がとてもキラキラして見えた。
「よくある口説き文句ですこと」
心臓が一瞬高鳴るのを必死で隠して片目を眇め笑って見せる私の手を、宗司さんは恭しい仕草で手に取り、彼の唇をそっと押し付ける。
「……っ、そ、宗司さん」
さすがに動揺した私の顔を覗き込み、宗司さんは蕩けるような甘い顔をして笑う。
「君は俺のお姫様だよ」