天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
「な、なにを言っているんですか」
ぱっと手を引いて彼から離れる。でもまだキスされた手の甲が、ひどく熱を帯びている……なにこれ!
「お姫さまだなんて、急に……っ、あ」
私は思い出し苦笑した。
「わかりました、亜香里に言われたことを思いだしたんですね。あれは全然大したことじゃなくて」
私は苦笑しながら、高校時代の白雪姫の話をする。
「よかったんですよ、あれで。私、お姫様って柄じゃないので」
「変なことを言うよな、君」
宗司さんは本気で不思議そうに言う。
「他の誰がどう思おうと知ったことか。俺にとって君はプリンセスで、それでいいんじゃないのか」
思わず息を吐く。ぽかんとする私の手を彼は握り、「それじゃ行こう」と扉を開き、スタスタ歩き出す。私は手を引かれながら、熱い頬を意識する。
「……それじゃ、宗司さん王子様ってことになるじゃないですか」
「ん? だめなのか」
にかっと笑って言われ、私は何も言い返せない。
「……ほんっと、俺様」
私のつぶやきを聞いて、宗司さんは楽しげに肩を揺らして笑った。
どこへ行くのかと思っていたら、旅館内の女性専用スパだった。手を振る宗司さんからスタッフに引き渡され、こじんまりとした日本庭園を眺めながらひとり、温泉に浸かる。
「一体、どういうことなんだろう」
ここへは宗司さんの休息のために来たのでは……?
不思議に思っているとスタッフさんに声をかけられ、アロマミストサウナを経由してエステベッドに寝かされる。
頭のてっぺんからつま先までたっぷりマッサージされ磨かれ保湿され、あまりの心地よさに何度も寝落ちした。
「これで終了でございます」
エステティシャンのお姉さんに言われ、「ふぁい……」と瞬きしながらベッドから下りる。肌がもちもちしているのが触らなくてもわかる。半分眠っている私のバスローブをスタッフが整えてくれる。
「ありがとうございます……」
「とんでもないことでございます。志季子様、お顔色がずいぶんよくなられましたね。お疲れでらっしゃるのですね」
スタッフが優雅ににこっと笑う。……これ、宗司さんも受けたらいいのに。病気を差し引いたとしても、私とじゃ比べ物にならないくらい疲れているんだから。
「こちら、冷たいハーブティーでございます」
サーブされたそれをごくっと飲みながら、ようやく気が付いた。
「もしかして、これがプリンセス扱い」
私は呟き、腕を組み何度か頷く。宗司さん、どうやら有言実行の人だった。
「これに関してはお礼言わなきゃね」
うん、ちゃんとお礼を言おう。率直に言って、最高の体験だった。
上機嫌の私がスタッフに案内されたのは、普通の更衣室じゃなかった。
ドレッシングルームとでもいえばいいのだろうか?
きょろきょろする私はスタッフさんに言われるままに猫脚の白いテーブルにすわった。
洋風の空間なのに、窓の外は日本庭園だ。ただ、不思議なくらいマッチしている。
球状の照明がいくつもついた、天井まである鏡をぼんやりと眺めていると、ノックのあとにずらずらと女性が何人も入ってくる。
「失礼いたします。本日担当いたします吉田です」
「田中です」
次々に数人分の自己紹介が行われ、ぽかんとしている間に目の前にもってこられたのは一着のドレスだった。