天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
ふわっとしたものじゃなくて、ワンピースタイプの、友達の結婚式に着ていくような……って、私が持っているものとは、生地の質感からして違うけど。
ブルーのレーシーな、私では選べないエレガントなドレスだ。
「お似合いです志季子様」
あっという間に着せられ、目を白黒させているうちに、ドレッサーの前に座らされメイクまで施される。髪もアップスタイルで上品にまとめられた。
これが宗司さんからのなんらかのサプライズなのはわかる。
わかるけれど、状況はよくわからない……と思っている間にパンプスを履かされる。
自分では選ばない、華奢なヒール。
「折れちゃいそう」
眉を下げるけれど、これが案外歩きやすい。
不思議だなあと思いながら、案内されるままドレッシングルームを出た。
だってここまで来たら、もうなるようになれだ。
予想通り、そこにいたのは宗司さんだった。
お礼と説明がないことへの文句と、どっちを先に言うべきか迷っていたのに、どちらも口にできなかった。
スリーピースのスーツをきっちり身に着け、前髪をアップするスタイリングにしている宗司さんが完璧すぎて言葉が出なかったのだ。
「おお、見惚れてる」
「ちが……っ」
反射的に言い返しそうになった私の手を取り、宗司さんは甘く目を細める。
「俺は見惚れてるけど」
きゃあと黄色い悲鳴を上げたのは私じゃなくてスタッフさんだった。
私は目を真ん丸にして、心臓が強く拍動するのを必死でなんとかしようと意識を集中させていた。
ええい、不随意筋め、ちょっとは落ちつきなさいよ!
宗司さんはとても恭しく私をエスコートしてエントランス前に停まっていた黒塗りの高級車の後部座席に乗せ、自分も横に乗る。
旅館のスタッフが笑顔でドアを閉め、車はとても静かに出発した。
「あの、一体どこへ」
「昼食。フレンチ」
端的に答える宗司さん。車窓から見える景色はあっという間にビル群に変わっていく。
宗司さんは黙って外を見ている。ああ、なにか喋らなきゃ、なにか……。
「……あの、エステ気持ちよかったです。ありがとうございます」
「うん」
宗司さんはこちらを向いて私の頬を撫でる。
「顔色がいい」
「宗司さんこそ疲れているのに、マッサージ受けたんですか? 温泉はご自分が休むためだったんじゃ」
「君といちゃついているのが一番癒されるんだよ」
そう言って彼は私の手を握り、自分の額に押し当て、目を伏せた。
手のひらに直接感じる彼の体温。
息苦しくてたまらないのに、手を振りほどくことも彼から視線を外すこともできない。
……宗司さん、まつげ、長いんだな…。
細かなところまで観察してしまう。ゆったりと彼が瞼を上げ、柔らかく目を細める。
「自分でもおかしいと思うくらい、君に触れられるのは心地いい」
また心臓が変な感じになる。手を引こうとしたのに、大きな手のひらに握られて包み込まれてしまう。
「もっと君に触れたい」
そう言って彼は私の手にキスを落とす。甲にも、指にも。
「いまにも食べてしまいたいのを我慢しているのに。俺の忍耐力を褒めてくれ」