天敵外科医さま、いいから黙って偽装婚約しましょうか~愛さないと言った俺様ドクターの激愛が爆発して~【愛され最強ヒロインシリーズ】
その言葉の意味を理解して慌てて手を引く。今度は引き留められなかった。胸の前でぎゅっと手を握りこみ、きっと真っ赤になっているだろう顔で宗司さんを睨む。
「からかわないでください」
「本気だよ」
「本気…」
思わず呟き返した私は息を止めてしまう。
だって、彼の瞳に明らかな欲が宿っていることに気が付いてしまったから。
車が止まったのは都心にある高級外資系ホテルの正面玄関前の車寄せだった。すぐさま待機していたスーツの男性がドアを開く。
「お待ちしておりました、香月様」
「ほら、ぼーっとするな」
宗司さんのことばに、私はしばらくポカンとしていたことに気が付いて急いで車から下りる。
宗司さんと私ににこやかに挨拶するスーツの男性は、胸元に“支配人”と書かれた金色の四角いネームプレートを着けていた。
「急な予約に対応してくださりありがとうございます」
宗司さんが鷹揚で余裕たっぷりな、けれど人当たりのいい穏やかな笑顔を浮かべて思わず眉を寄せそうになった。
宗司さん、そんな外向けの顔できたの……⁉
いやまあ、社会人なのだし、そりゃできるか。そうは思うけれど新鮮すぎて目を擦りたくなる。
「とんでもないことでございます。香月様のご予約でしたらいつでもお待ちしております」
支配人に見送られ、宗司さんにエスコートされて落ち着いた深紅の絨毯を歩く。
エレベーターに乗り、最上階へ。エレベーターの鏡を見て私はとてもむず痒い気分になる。
「私、……大丈夫でしょうか」
「なにが?」
「いや、最初この格好を見た時は馬子にも衣裳だなって思いました。でも、落ち着いてくるとこう、私のキャラじゃないなってむず痒くて……ってにゃにしゅるんでふか」
何するんですか、と言いたかった。宗司さんは私の頬を掴んでいた手を放し、また甘やかに笑い「志季子は綺麗だよ」と断言する。
「似合ってる。可愛くて綺麗で、俺の最高の婚約者だなと思う」
「こ、ッ」
私は軽く咳払いして言いなおした。
「婚約者は、偽装で」
「偽装はもう終わりだ」
「横暴です。こう、両者の同意が」
「ならさっさと同意してくれよ、お姫様」
いつの間にか、エレベーターの壁際まで追い詰められていた。壁に手を着いた宗司さんが私を見下ろしている。
「あまり忍耐強いほうじゃないんだ」